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広がるのは臨也と出会った時みたいな晴々とした青空。今は昼休み。あたしはあの時のようにまた屋上に来ていた。でも前とは少し違う。
今はもう、臨也と一緒。
普通は彼女がしてあげるものなんだろうけど、あたし達は逆で、あたしが臨也にひざ枕してもらうのが日常になっていた。視界には青と白の空と、それを見上げる臨也。黒髪がそよそよと揺れて眠気を誘うのだ。


「眠いの?」

「んー」

「もうすぐ授業だよ」

「知ってる」

「授業はサボらないんじゃないの」

「だってどうせアンタは静雄とケンカしに行くんでしょ」

「俺の膝の上でその名前言わないでよ。落とすよ」

「やだ痛いもん」


半ば本気そうだが、あたしがごまかす様に笑えば許してくれる。周りから怖がられてる臨也だけど、本トは凄く優しい人なんだ。あたしは知ってる。まぁ、あたししか知らないかもしれないし、あたしだけに優しいのかもしれないけど。それはそれでいいかなとか。


「本トにいいの?授業」

「臨也と一緒ならいいかなって」


呆れたような表情で、臨也はあたしの髪を撫でる。その手を捕まえると、臨也は「何?」と優しく言うのだ。


「臨也の手、優しいね」

「それ、前にも聞いた」

「前にも言ったもん」


自分の頬に臨也の手を擦り寄せながら、幸せを噛み締める。あんなにケンカばっかりしてるのに、何でこの手はこんなに優しいんだろう。最初はそんな素性も知らなかったけど、今となっては疑問だらけだ。もしかして、あたしの感覚がおかしいのかもね、なんて思いながら苦笑すると、臨也は少し不満げにあたしを覗き込んだ。


「何笑ってんの?」

「別にー?」

「…まぁいいけど」

「いいならいいじゃん」

「ほら、授業始まるよ。起きて」

「臨也は?」

「俺もちゃんと出るから」


ポンポンと頭を叩かれる。本トに?と問えば本トに。と返ってきたから、仕方なしにあたしが体を起こすと、臨也も背伸びをして立ち上がった。どうやら本気で授業に出てくれるみたい。いつ振りだろうか。それが当たり前のことなんだろうけど、あたしはなんだか嬉しかった。
そそくさと歩き出す臨也に追い付こうと、急いで立ち上がろうと床に手をついた。


「―――…え」


瞬間、入れ代わる視界。青と白だった視界が、黒に染まり、月も星も無い夜空が広がる。距離感のない黒の背景に、嫌にリアルな屋上のフェンスが立ち並んでいる。周りを見渡そうと振り向くと、目の前には、扉に向かった筈の臨也がいた。赤い目。さっきまでの青空とは対照的な濃い赤の瞳があたしを捕らえていた。


「臨…也?」

「何?」

「これって、どういう…」

「さぁ。俺がわざわざ言わなくても、分かってるんじゃないの?」

「え…」


にじり寄る臨也。気が付けばあたしの後ろにはフェンスが迫っていた。ガシャリと音を立ててぶつかるが、臨也はそれにも構わず進んで来ている。“怖い”。そう思った自分を自覚した。


「俺は人間が好きだよ。この意味、分かる?」

「…」

「分かるよね。分かってるから口にしないんだろ?」

(怖いよ、臨也)

「怖い?だろうね。だって君、もう頼る人が居ないんだから」


声に出していない思考が読まれる。しかしそれには何故か違和感を感じなかった。臨也があたしの全てを分かってるとか、そういうんじゃなくて、ただ純粋に疑問に思わなかったのだ。するり、と髪を撫でられる。その手は変わらず優しくて、一瞬気を取られた。


(いざや、…)

「あれ?もしかして気付いてない?なら教えてあげなきゃね」


撫でていた手が首を伝って肩に下りる。その瞬間、背中にあったフェンスの感触がふわりと消えて、あたしの体はゆっくりと宙に向かい傾いていく。


「君、もう必要ないから」


トン、と押された衝撃は少ないのに、心臓を射抜かれたような痛みと共に、あたしはスローモーションのまま、地面へと落ちていくように思えた。



(いざ、)

「バイバイ、名前」



ざわりと嫌な風が吹いたかと思うと、臨也は冷酷な微笑みを浮かべた。永遠にスローモーションかと思えた落下は、その瞬間一気にスピードを上げる。ジェットコースターよりも早く、あたしの体は地面にたたき付けられるのだ、臨也への想い共々、砕け散る為に―――



「―――臨也ぁッ…!!」



バサリと音を立てたのはあたしが握った布団だった。焦って見回せば周りは薄い黄色と白の空間だった。自分の部屋…そう自覚すると力が抜けた。


「…また、この夢…」


毎日のように見る夢。屋上から臨也に突き落とされる悪夢。一瞬にして全てが絶望に支配される恐ろしい幻想。冷や汗を拭うようにくしゃくしゃになった髪を掻き上げると、思わずため息が漏れた。


(…臨也、)


高校を卒業して1年。自分もなんとか一人暮らしを始めて、いろんな日々を送ってきたというのに、登場するのはいつも学生時代だった。



「…会いたいよ、臨也」



彼とはもう、半年以上会っていない。



































101109
久々です。ヒロイン視点です。夢の中、っていう表現が…難しい(´д`;)折原君どこ行ったんだい。
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