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授業開始のチャイムから早10分。詳しく言えば11分と36秒。ほんのりと調度いい日差しが窓から差し込む教室で僕らはいつも通り授業を受けていた。外は和やかな雰囲気で空には鳥が優雅に飛び、と言いたい所だが、
空にはいつも通り“跳び箱”が飛んでいた。


「おい、苗字」

「はい」

「何とかしろ」

「何がですか」


そして、時計の針が12分を指した辺りでいつも通りの先生と彼女の会話が始まる。


「平和島と折原を止めてこい」

「なんであたしが」

「お前しか止めるヤツが居ないからだ」

「新羅とかは?」

「岸谷が言って聞く奴らだと思うのか?」

「先生酷ッ」


そんな反論をしてみるものの、実際僕自身も彼らを止められる自信はない。多分、僕の席の斜め前で怠そうにしている彼女、苗字名前にしか彼らを止めることは出来ないのだろう。これは来神学園全生徒、教師までもが認める事実なのだ。


「…仕方ないなぁ」


渋々先生の言う事を了承すると、名前は徐に席を立つ。前の時間に寝ていた為に乱れた髪を掻き上げながら、慣れた手つきで窓を開ける。そして手摺りに手をかけると、彼女は深く息を吸い込んだ。



「アンタらいい加減にしろーッ!!」



爆睡していた生徒さえ飛び起きる程の大音量で彼女は外に向かって叫んだ。宙に浮いていたホワイトボードが重力に負けて落下するのと同時に、学園は静寂に包まれた。爆音を響かせていた例の2人は、彼女の声に手を止める。沈黙を破ったのは金髪の方だった。


「なんだ名前!止めるんじゃねぇ!」

「何が止めるんじゃねぇだよ!かっこつけてないで教室戻りなさい!」

「教師みたいに命令すんな!」

「先生命令なんだから仕方ないでしょうが!」


よくその遠距離のまま会話を続けて声を枯らさないもんだ。若干尊敬しながらも、僕は彼女の背中を見ながらグラウンドで叫ぶ静雄の様子を想像していた。


「臨也も!ほら!」

「自分だってサボる癖に」

「あたしは行事が嫌いなだけです!授業は出てます!」

「どうせ寝てるんでしょー」


今度は臨也の怠そうな声が届く。どうせアイツの事だから小型のナイフぐらいは持ち出しているだろう。そんな姿を見ても動じない名前も慣れたものだ。授業は一時停止。みんな3人の会話に注目していた。


「仕方ないなぁ、名前が言うなら今日の所は引き下がるよ」

「今日だけじゃなくこの先ずっとお願いしたいんですけど」

「それはシズちゃん次第なんじゃない?」

「その呼び方は止めろって言ってんだろクソノミ蟲…ッ」

「あああ静雄、抑えて抑えてー!」


身振り手振りで必死に止める名前に、仕方なさそうに手を止める静雄。臨也はどうやらもうその場から立ち去っていたようだった。アイツが大人しく教室に戻ってくるとも思えないけど。静雄が渋々校舎に入るのを確認したのか、名前は席に戻りながらまた髪を直した。


「先生。内申、上げてよ」


さも当たり前のように告げるが、先生は複雑な表情でわざとらしく咳込んで授業を再開した。ザワザワとした空気も瞬時に一掃され、みんな本来の授業態度に戻る。ここの生徒はもうこの生活に慣れてしまっているのだ。
苗字名前は極道の一人娘で、その権力であの2人を押さえ込んでいる。たまに聞く噂だが、それは真っ赤な嘘だ。彼女は極一般的な家庭に生まれた極々普通の女子高生。どうやら名前は昔から静雄と幼なじみだったらしく、そのよしみで彼はあんなに素直に言うことを聞くらしい。それ程の信頼を置いているという訳だ。そうなると臨也の方は何なのか、という話だが、それはもっと簡単な事。
彼らが恋人同士だから。


「ねぇ名前」

「何?」


小さく彼女に声をかける。授業中ではあるが、このくらいの声なら何の問題もない。


「臨也の何処が好きなの」

「何いきなり」

「なんか気になったから」


彼らが付き合い始めたのは2年の始め頃だ。出会いは入学式らしいが、その後の経緯は詳しく知らない。しかし、彼らが付き合う事は自然の流れのように思えた。何しろ、顔はいいにしてもあの性格の臨也の近くにいる女子なんて彼女ぐらいしか居なかったのだから。


「強いていうなら、手かな」

「手?」

「そう、手」


うむ、と暫し悩んだ末に彼女は呟くように言う。
ナイフなんか振り回してるから、危なそうなイメージあるけど、本トは柔らかくて暖かくて、優しいんだよ。
窓の外を見て笑う彼女。授業終了のチャイムまであと14分57秒。窓からの光を受けるその姿に僕は思わず見とれていた。




































101006
新羅視点ですた。難しいです岸谷氏。gdgd長いです岸谷氏。そしてヒロインの設定がベタ過ぎて涙目。
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