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まだ肌寒さが残る春の始め。世界が当たり前に回っている中で、俺はまた新しい“日常”に足を踏み出そうとしていた。
来神学園入学式。都会の真ん中にあるというのに校門付近には桜の木が薄ピンクの花びらをはためかせていた。ゾロゾロと体育館に入場していく生徒達を遠くの廊下の窓から見つめる。俺はハナから入学式になんて出席する気はない。入学手続きが済んでしまえば、入学式なんて出なくても入学したことには変わりないし、問題はない。
かったるい行事なんてそっちのけで、みんな真面目だななんて軽く笑いながら、俺は屋上に続く階段を上がった。


「ベタだったかな、屋上なんて」


サボりといったら屋上。そんなマンガみたいな事を1度くらい体験してもいいだろう。もしここがダメだったら、後からまたゆっくり他の場所を探すまでだ。春らしい風を受けながら、俺は屋上を進んでいった。
不意に寝息が聞こえる。まさか、俺の他にもサボりがいるのか?やっぱりこの場所は安易過ぎたか。少し後悔するものの、その寝息が誰のものなのか確かめるべく、俺は音のする方へ向かった。


(…女だ。しかも1年)


日陰で眠っていたのは、真新しい制服を纏った女子。安心仕切った表情で夢の中だった。


(スカートどうにかしろよ)


寝相で捲り上がったスカートは、すれすれの所で彼女の太股を隠している。危なっかし過ぎるだろ、男が見たらどうなるんだ。まぁ俺も男だけど。俺は見知らぬ女に手を出すようなバカじゃないし、そんなに落ちぶれてもない。別にどうとも思わない。


「ていうか、アンタもサボりか」


入学式からサボるなんて、珍しい女。風に靡いた髪が鼻の頭に当たってくすぐったいらしく、彼女は眠ったままの状態で鼻先を擦る。それでもおさまらない風が、彼女の睡眠を邪魔していた。


(…仕方ないな…)


俺はお世辞にもお人よしなんか言えない性格だけど、なんだかその日は気が向いて、らしくもなく浮かれていたのか、もしくはただ彼女が目覚める事が面倒だったのか、そよぐ髪を除けてやることにした。極力直接触れないようにしながら、出来るだけ、優しく。


「…ん…?」

(うわっ、起きた。最悪)


薄く開かれた目は確実に俺を見ていた。初日から超絶、最高に最悪だ。そんなめちゃめちゃな日本語を並べながら後悔していると、そんな事も知らない彼女が、未だ夢と現をさ迷いながら口を開いた。


「…誰」

「―――…」

「まぁいいや」


いや、良くないだろ、なんてツッコミは口から出ることもなく。
伸びてくる手。それは正確に俺の手を狙ってきて、ゆっくりと捕まれる。一瞬何が起きたのか分からない俺に、追い打ちをかけるようにして、彼女はふにゃりと眠気まなこのまま笑った。


「アンタの手、優しいね」




































101005
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