enhAnce | ナノ
鐘のように彼の声が頭の中で鳴り響く。脳裏に焼き付いたあのニヒルな笑みからはどうやっても逃げられないのか。そんな事を考えながら、あたしはまたいろんな事を後悔していた。
2人だけ、誰にも教えちゃいけないよ
“秘密の場所だ”といかにも怪しい事を口にした時点で疑うべきだったのだ。それでも、あんな事言われたらついていくしか無いじゃないか、仮にも恋心を抱いていたただの乙女だったのだから。2人だけ、その響きが心地好くて、幼気な少女だったあたしは、あの黒ずくめについていった。まさか、それが裏目に出る事なんて考えもしないで。
ドアが1つ、窓はない。白とも黒ともつかない壁は、灰色と分かっていながらあたしには闇にしか見えなかった。
カチャリと鍵の開いた音がしたかと思うと、間もなくあの黒ずくめが入ってくる。甘楽さんがログインしましたってか、NGユーザーにしてやりたい気分だ。
「あ、起きてた」
「何その残業終わりのサラリーマンみたいな」
「じゃあ君は俺の奥さんってとこ?」
「絶対お断りですけど」
どれだけ睨んでも皮肉を言っても、コイツは表情を変えたりしない。焼き増しした写真でも見るように、あたしの頭の中の顔とぴったり一致する笑みのまま、臨也はドアの前に立っていた。
「気になってたんだけど、結局あたしをここに閉じ込めて何がしたいの」
「別に?監禁プレイもいいかなって」
「真面目に答えてよ」
「真面目に答えたじゃないか」
酷いなぁ、と付け加え苦笑の臨也。あたしからしてみれば酷いのはそっちの方だ。見ろこのザマを。幼気な少女(だったかどうかは分からないけど)が捻くれ者に変わっていく様を。
何もない部屋じゃ、寝るか、暇潰しに物思いにふけるかしかない。大体の確率で彼に対して悪態をつくか文句を言っているかキレているかしかない自分も自覚しているが、それが嫌になるのさえ飽きた。半ばマイブーム化している。
「にしても君は本トにMだね、この状態で気が狂わないのも珍しい」
「珍しいってアンタ、他の人にもこんな事してんの」
「心理学的に見てだよ。誰がこんな面倒な事好き好んでやるの」
アンタでしょ、なんて冷静なフリをしているが、あたしは今ぶっちゃけそれどころではない。敢えて冷静を装わなければ、目の前の男が怖くて仕方ないのだ。こんな薄暗い部屋に閉じ込められて不安でない人間などいるものか。MとかSとか、そんなくだらないことを言われても、正直どっちでもよかった。今は出来るだけ冷静に、ここから出る作戦を立てなければ。臨也は何も気付かずあたしに近付いてくる。鍵が開いている今がチャンスだ。
「ちょっど残念だよ、今度こそ泣きついてくるかと思った」
(もう少し)
「ただのバカだと思ってたけど、実は根気強いんだね」
(あとちょっと)
「まぁ予想外の展開ってのも面白いからいい――」
(――今だ…!)
心の中でそう思うなりドアに向かって足を踏み出す。あと1メートルで外の世界。久しぶりに日の元に出られるんだ。ヒネくれた性格も、暗いマイブームも全部、この黒ずくめと一緒に置いていってしまおう。
ドアノブに手をかけて勢いよく捻る。よし、いける。そう思った
「けど、残念」
手首に握られる感触があると同時に痺れる指先。強い電流が体の半分程を駆け巡り、あたしは思わず膝を折った。
「君がここで逃げるのは、想定内なんだよね」
(な…ッ)
「わざと余裕ぶってたでしょ?全く、可愛いねぇ」
電流の所為で揺らいだ視界には、灰色の闇に浮かぶ、あの笑い。ああやっぱり、コイツに隙が出来た事自体を疑うべきだったんだ。気を抜いたあたしの、バカ。
(全部、読まれてんのに)
「狂っちゃえよ、おバカさん」
釣鐘に住む悪魔
(総て鐘の音に呑み込まれてゆく)
101027
久々enhAnce^p^会長とみたとか最強コンビ!くりーみー素敵!殿を入れると尚素敵!しかし話ぐちゃぐちゃである(´・ω・)チュン