enhAnce | ナノ

纏わり付く湿気が鬱陶しい。梅雨に風情を感じるヤツもいるらしいが、そんなもの俺には関係がない話だ。どうしようもないウザったさで苛立ちを募らせるが、誰に当たる訳にもいかない(あのクソノミ蟲は別だが)。全ては天候の所為だと割り切るしかないのだから。


「…またお前か」

「えへへ、今日もイライラだね、静雄さん」

「怖かったら帰れよ?お前ぐらい小さいやつだったら捻り潰しちまうかもしれないからな」

「大丈夫、怖くないよ」


雨の日だけ現れる、赤い傘を持った少女。それが今俺の前に立っているヤツへの印象。何故雨の日なのかは知らない。何故俺の前に現れるのかも知らない。でもこの時期は特に、彼女は俺の元へやって来るのだった。俺も別に嫌な訳でも面倒な訳でもなかったが、若干の疑問を拭えずにいた。


「今日はどうした?」

「なんか、そろそろ梅雨明けだしって思って」

「そうか」


どうやら彼女も、自分が雨の日だけ現れる事を隠していないようだったが、何故かその理由を聞いてはいけない気がした。道端のガードレールに寄り掛かりながら、俺はタバコを吹かす。その隣には少女。まだ小雨も降っていないというのに、閉じられた彼女の傘は濡れていた。


「今日はまだ降ってねぇぞ」

「そろそろ降るよ」

「そうなのか?」

「そうなの」


表情の有無は、幽より少しあるぐらいか。やや古風な雰囲気を漂わせる彼女は、不意に持っていた傘をスッと広げると俺に差し出した。


「静雄さんに、届けに来たの」

「俺に?」

「そう」

「お前はいいのかよ?もうすぐ降るんだろ?」


彼女が言うことには嘘がない。それは本能が告げていた。それじゃなくても 彼女が降るといったら必ず雨は降った。俺に手渡すとくるり、と踵を返す彼女。開いた傘がポツリと音を立てた。あ、やっぱり、彼女が言うことには嘘がない。
降り始めの小雨に濡れながら、小走りに去っていく彼女。少し距離を置いて振り返ると、彼女は小さく 笑った。



「大丈夫。怖くないよ」



本降りになった雨に、彼女は見えなかった。
















(傘が揺れて 滲む また)

























101004
不思議系目指したけど\パーン/した。シズちゃん相変わらず難しいなう
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -