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「あ、ほら、虹だよ臨也」


空に向かって指を指しながら無邪気に笑う名前。まさか誰も、今の彼女を見て幽霊だなんて思うまい。まぁ、他に彼女の姿を確認出来る人が居れば、という話だが。


「虹なんてただの光の屈折だよ」

「夢無いなぁ」

「俺は現実主義なの」


つまらなそうに口を尖らす彼女の姿は確認せずとも容易に想像出来る。窓から虹を眺めながら、彼女はトーンを変えずまま言った。


「そんなに現実的なのに、あたしは見えてるなんて、変なの」

「愛だよ」

「自分で言うな」


冗談めいて言うと呼応するように彼女が笑う。やっぱり、俺には名前がまだ生きているようにしか思えない。
あくまで死人である彼女には、既に墓もあるし、綺麗に埋葬された事実もある。それでも、今目の前にこんなにもはっきりと彼女が見えてしまっている以上、そんな事ただの形式的なものでしかない気がした。


「もしかしたらあたしも、ただの屈折で見えるのかもしれないよ?」

「何の」

「臨也の愛、とか」


アハハ、と乾いた笑いと共にそんな事を軽く口にする名前。彼女は一瞬だけこちらを見たが、すぐにまた虹に目を向けてしまった。少しだけ不安を覚える。俺は感じた違和感をあまり気にせずまま、自分の仕事を進めていった。


「臨也も見なよ、虹。綺麗だよ」

「そんなの雨が降ったらいつだって見れるよ」

「…そっか」


少し間を置いた彼女の返答。俺は深い意味は無いものだと半ば無視するように彼女の言葉だけを聞いていた。


「もうすぐ消えちゃうよ」

「そう」

「バイバイだよ」

「それがどうしたんだよ?」


パソコンの画面を見ながら、いつも通りの会話。少し幼さの残る彼女の口調は生前と変わらなくて、やっぱり生きてるんじゃないかと思ってしまう。俺にしか見えない名前。虹よりずっと貴重じゃないか。


「ねぇ名前」


目を向けずに彼女を呼ぶ。しかし、あるはずの返答は無かった。何事かと思って彼女の居た窓際に視線を移動させるが、そこにはさっきまであった彼女の姿は無かった。

「―――…名前?」


返答は、無い。
思わず立ち上がって周りを見るが、彼女の姿はどこにも無かった。先程まで彼女が立っていたであろう場所まで進むが、そこには何がある訳でもなく、ただ青空が眩しく見えるだけだった。


「…虹なんて、何処にも無いじゃないか」















(君が残した確かな傷痕)
























100908
エンハンスシリーズの最初がセツナになるとは思わず…!みちゃ好きだ…!駄菓子菓子1番はくりあだ…!
臨也はちゃっかり欲しいものを手に入れるタイプだと思うけど、知らない間に必要なものを無くしてるような気がする。悲しい大人だね。
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