過去ログ | ナノ






「シズちゃんって意外と普通の人だよね」

「―――…はぁ?」


ベランダでタバコを吸っている静雄に対し、名前はソファーで呆然とその姿を見ながら呟いた。思わず疑問の声を上げる静雄。そんな彼の様子を気にする事もなく、名前はカップに入ったコーヒーを飲んだ。


「ていうかその呼び方やめろ。腹立つ」

「えー、あたしこの呼び方好きだよ」

「やめろ。しかもそのコーヒー俺のだろ」

「静雄の苦っ。砂糖砂糖」

「どんだけ甘党だお前」


さも自分の部屋のように慣れた手つきで砂糖を持ってくる名前。どうやらそれはいつもの事らしく、静雄が何か言う事でもない。静雄の飲みかけだというのに、名前は何の躊躇いもなく砂糖を追加する。そして、変化を確かめるべくそれを口に含んで満足げに微笑んだ。


「はぁ…幸せだ」

「もうそれコーヒーって言わねぇだろ」

「えー、静雄は固定観念が強すぎるんだよ。臨也は“良かったね”って笑ってくれたんだよ?」

「…へぇ…お前アイツの家行ったのか」

「―――…おうふ、」


大失態だと言わんばかりに冷や汗をかく名前を半ば睨みつけながら、静雄は限りなく無表情に近い表情で吸っていたタバコを吸い殻入れに擦り付ける。その目は獲物を見つけた野獣のようで、名前はあかさらまに苦笑いしていた。ゆったりとした動きで室内に進入し、窓を閉める事もせず真っ直ぐに名前に向かい進んで来る静雄。生憎ソファーの上の名前には逃げる余裕は無かった。


「いつ行ったんだぁ?この前行くなって言ったばっかりだよなぁ?」

「いや、ちょっと仕事で…」

「フリーターの癖に何言ってんだお前ぇ!」

「うぇえ許してぇっ!」


反射で頭を抑える名前だったが、その瞬間、予想していた衝撃は無く、勢いよく腕を掴まれたかと思うと、目の前には不安に満ちた静雄の顔。驚いた名前は一瞬固まって動けなくなっていた。


「アイツがお前に気がある事くらい分かってんだろ。なんでわざわざアイツの家に行った」

「ちょっと新宿寄ったついでに、暇だったから…」

「何もされてねぇだろうな?」

「うん、ちょっと話して帰ってきただけだよ」


彼女の無事を確認して、静雄は呆れのような安堵のようなため息をついた。


「安易にアイツの家に行くな。何されるか分かんねぇだろ」

「……ごめんなさい」


素直に反省する名前の頭を、子供をあやすように優しく撫でる静雄。そのまま自然に抱きしめると、名前も彼の心境を読み取ったのかキュウ、と彼の服を掴んでいた。


「…やっぱり静雄は普通の人だ」

「何がだよ」

「嫉妬したんでしょ?臨也に」

「お前、この状況でよくアイツの名前言えるな」


抱きしめる腕に少しだけ力を込めると、名前は痛いと苦笑した。すぐにその手を緩めながら、静雄は無邪気に笑っている彼女の目を見つめて不満そうに呟いた。


「お仕置き、だ」


そのまま流れるように口付ける。開いたままの窓から吹き込んだ風が2人の髪を撫でて、つかの間の沈黙。ふわりと触れた唇を離すと、少し桃色に染まった彼女の笑った顔が目に映った。


「…静雄、苦い」

「バーカ、お前が甘すぎんだよ」
















(分け合えば幸せ)

























100604
おうっぷ…甘っ…くそ甘い…なにこのシズちゃん…シズちゃんじゃない、だと…
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