過去ログ | ナノ






「あ、臨也お帰りー」


いつも通りに家に帰れば、そこには当たり前のようにソファーでくつろぐ彼女の姿があった。


「何でここにいるの」

「波江さんが入れてくれたから」

「何しに来たの」

「…夜這い?」


(波江のヤツ…嫌がらせのつもりか何かか)


疲れた顔をさらに疲れた表情に歪ませる臨也。そんな臨也には目もくれず、名前は彼が途中放棄したクロスワードを眺めていた。いつも座る場所を奪われ、臨也は諦めて水でも飲もうとキッチンに向かう。彼がシンプルな作りの銀色の蛇口を捻って、コップに水を注ぐのと連動するように、名前はクロスワードをパラパラめくりながら平然と彼に問った。


「最近イライラしてるんだってー?」

「何が」

「波江さんは関係無いんだから迷惑かけちゃダメだよ」


(…アイツ、名前にまた変な事吹き込んだな…)


頭に思い浮かべた波江の顔を憎々しげに睨みつけながら、臨也は勢いよく蛇口を捻って水を止めた。コップの水を口に含み、今日あった事を振り返る。情報を集めに池袋まで出向いた。そしていきなり“降ってきた”自販機をいつも通り軽く避けながら皮肉を言って帰ってきた。ただそれだけの事だったのに、臨也は思い出しただけで不機嫌そうに眉をひそめた。



「静雄さん?」



テレビも付いていないほぼ無音の部屋の中で凜と響いた彼女の声。名前はいつの間にかクロスワードの雑誌をどこかに閉まっていたようで、楽しげに臨也を見ていた。あからさまに不快、といった表情を浮かべる臨也に対し、相変わらず微笑む名前を見て、臨也は水を飲み干したコップをわざと音が出るようにゆっくりシンクに置いた。


「どうせ今日も池袋行ったんでしょ?懲りないねぇ」

「名前には関係ないでしょ」

「あるよー、あたし静雄さんと仲良しだもん」

「アイツの名前言うの止めてくれないかな」

「何で?」


引き攣った笑いを顔に張り付けながら、臨也は名前を睨みつける。変わらず自然な笑みを浮かべる彼女は、ゆっくりと歩み寄る臨也に怯むことなく、悪びれた様子もなく、どうみても喧嘩を売っているようにしか思えない。少なくとも今の臨也にとってはそうだった。


「何でって、俺がアイツの事嫌いな事知ってるくせに」

「知ってるよ。嫌いどころじゃないくらい嫌いなんでしょ?静雄さんの事」

「わざと言ってる?」

「どうかな?」


クスクスと笑いながら忌ま忌ましい人物の名前を言い続ける彼女に、流石の臨也も堪忍袋の緒が切れたようで、名前の座るソファーに座り込んだかと思うと、そのまま彼女の肩を掴んで押し倒した。どさりと音を立てて名前の視線が天井に移動する。それを遮るようにして、彼女の顔を真っ直ぐ見る形で彼女の視線を奪う臨也。手際よく彼女の腕を抑えれば、動く事が出来ずに、ただ臨也と目を合わせている名前。彼女は今だにコロコロと笑っている。何が楽しいのか。完全に頭に血が昇った臨也には理解出来なかった。それでも本能的に冷静に見せると、臨也は笑う彼女を制するように一気に顔を近付けた。



「生意気な口利いてると、その口塞ぐよ?」



いつもより低い声色で告げる臨也に一瞬名前の目が見開かれる。彼の黒髪が頬に触れるのを感じると、名前はまた口角を上げてハハッ、と笑った。


「欲求不満?」

「1割」

「残りの9割はヤキモチってとこかな」

「…否定はしないよ」


純粋な視線を向ける名前に、臨也は一気に毒気を抜かれてしまう。はぁ、と呆れたようなため息をつけば少しだけ名前の前髪が揺れて、擽ったそうに名前は小さく笑った。


「口、塞がなくていいの?」

「諦めた。どうやらお前の口を塞ぐよりアイツを殺した方が早そうだから」

「泣いちゃうよあたし」

「いいよ。そんな顔も好きだから」

「変態」

「お褒め頂き光栄です」


変わらず笑う名前につられるようにして、自然と口角をあげる臨也。彼女を動かさないように掴んでいた腕の力を緩めると、少しだけ間をおいて触れるだけのキスをした。
















(自分は持ち合わせていない“純粋”を君の中に見ながら、俺は君に愛を捧ぐ)

























100524
いーざーやー\ギューン/
ダメだ最近臨也依存症だお

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