過去ログ | ナノ
「名前…っ」
情報を聞き付けて真っ先に足を運んだのは唯一の友人である闇医者の家。見慣れた家の造りを楽しむ訳でもなく、俺は彼女がいるであろう部屋のドアを勢いよく開けた。案の定そこには名前の姿。しかしそこに俺が思った悲惨な光景はなかった。
「あれ?臨也、早いね。どしたの」
「どしたのって、名前…ケガしたんじゃ…」
小説を手にして俺を見る名前。その姿を確認してほっ、と息をついていると、後ろから聞き慣れた高めの声が聞こえる。
「心配し過ぎだよ臨也。軽い骨折さ。1ヶ月後には普通の生活に戻れるよ」
「…新羅、」
「随分焦って君らしくないね。そんなに心配したの?」
「…」
「聞いた話じゃ君の仕事の所為で名前ちゃん、怪我したんだって?彼氏なら彼氏らしくちゃんと気使ってあげなきゃ」
「…うるさい」
小さく呟くと新羅は大袈裟に肩を竦めて踵を返す。後は2人で、なんて言いながら俺を部屋に押し込めると強制的に扉を閉めた。2人きりになった空間に時計の針の音だけが響いて数秒。何となく合わせられなくなった視線に惑っていると、不意に彼女が口を開いた。
「ははっ、見た?あの岸谷先生の驚いた顔」
「え?」
「アンタがあんなに必死なの、岸谷先生も始めて見たんじゃないの?目点だったし」
「……」
コロコロと笑う彼女の足にはギプス。それは紛れも無く彼女の傷であり、俺が負わせたもの。完治しない限り彼女は自由な生活が出来ない上、ここから出られない。多分新羅やセルティもいるし生活面で不自由はないだろうが、自由に動けないのはやはり不便だろう。
俺の仕事に彼女を巻き込んでしまったが故の怪我。そんなこと絶対にしないと余裕をかましていた俺のミスだ。彼女だけは、名前だけには迷惑をかけたくなかったのに、実際この有様だ。罪悪感と不甲斐なさに俺は彼女の目を真っ直ぐ見れずにいた。
「気にしてんの?」
「…」
「……バカだなぁ」
「バカって、俺はこれでも心配して」
「一人ぼっちになりたくなかった?」
「…っ」
「素直だなぁ臨也は」
“一人ぼっちになりたくなかった”。彼女の怪我を聞いて、1番最初に思い付いた事だった。今まで散々“独り”を経験してきた俺は、彼女の存在によってそれを抜け出しその辛さからやっと逃れてここまできた。今更“孤独”になど戻れるわけもなく、過去に戻る事に対して自分でも信じられない程恐怖を覚えている。全く、彼女には何でもバレてしまうのだから困ったものだ。
「…ごめん、名前」
「あれ、臨也が謝った珍しい」
「俺だって悪いと思ってない訳じゃないって」
「…分かってるよ」
彼女は持っていた本を優しく閉じて置いた。そして扉の前に立ち尽くしていた俺を呼び寄せる。そのままベッドの隣に置かれていた椅子に座らせられると、彼女はおもむろに俺の手をとって笑った。
「アンタが何を心配して、何に対して謝ってんのかは全部分かってる。だから大丈夫」
怪我させてごめん。怖い思いをさせてごめん。独りにさせてごめん。独りになりたくなくてごめん。いろんな思いが交錯して言葉が出ない。まるで小さな子供に戻ったような気分だ。反省と羞恥にさらされながら俺はただ握られた手を見ていることしか出来ずにいた。
「あたしも、独りは嫌だ。元々一人っ子だし、さびしん坊なんだよねあたしって」
「…」
「だから臨也、あたしを独りにした罰ゲームに1つお願い聞いて」
「…何?」
母の様な優しい口調で紡がれる言葉に自然と視線が上がる。完全に目があった時点で、彼女は困ったように眉を下げて再び小さく笑った。
「もう独りにならないで」
「…」
「アンタが独りになったら、あたしまで独りになっちゃうもん。そんなんやだ」
「…結局自己満じゃん」
「悪い?」
さっきとは打って変わった無邪気な表情を見せる名前。ああ、いつもの名前だ。ふとそう思いながら彼女の手を握り返す。やっぱり女の子の手だけあって小さいな、なんてどうでもいいことまで考えながら、こんな事独りじゃ思えないし考えもつかないと冷静になる自分の思考回路に苦笑を漏らすと、彼女もつられたように笑った。
独り+独り=ふたり
(君がいなきゃダメなの)
110308
138の日という事でヾΘωΘノ久々折原
なんか後半gdgdですねいつものことですてgぺろ^p^