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シャワールームから水の音が止むと数分で扉が開く。俺はそれを特に気にせずソファーで書類を見ていた。冷蔵庫が開いてビンのカチャリという音が響くが、開けた本人は数秒中を眺めた後、そのままの状態で口を開いた。


「臨也ーお酒無いー」

「水で我慢しなよ」

「えー」


不服そうな顔で返事をする彼女に視線を振る事もなく、俺は自分の作業を続けている。冷蔵庫が閉まる音がしてやっと諦めたのかと思うと、彼女は水の入ったペットボトルを持ってソファーのひじ掛けに寄り掛かってきた。俺はそこで初めて彼女を視界に入れる。


「…何その格好」


風呂から上がってきた彼女は、裸にバスタオルというあまりに無防備な姿だった。置いてあった服はどうしたのかと聞けば、自分は髪が乾くまで服を着ない主義なんだとか訳の分からないことを言い出した。髪が乾くって、君の髪だいぶ長いんだけど。いつまで服を着ないつもりなんだ。風邪引いても面倒なんか見ないよ。


「自分の家じゃないんだから自重してよ」

「半ば自分の家だよ」

「そう思ってるのは君だけだから」


平然としている彼女は何事もないかのようにペットボトルの水を口に運んでいる。俺が思わずため息をつくと、ボトルのキャップを閉めるのと同時に彼女は口角を上げた。


「欲情した?」

「はぁ?」


寄り掛かっていた腰を上げ、俺の隣に座り直す名前。俺の手から書類を奪い取る彼女の表情は無駄に楽しそう。ああ、またこの展開か。そう思った。


「ねぇ臨也―――」

「嫌だ」

「なんで」

「君だけは絶対抱かない」


彼女の言葉を遮るように断れば図星だったようで、彼女は悲しそうな表情になる。いつもの事だ。彼女は何かと俺を求めてくる。


「あたしじゃダメなの」

「そういう事じゃない」

「じゃあなんで」

「何でも。俺は君を抱きたくないんだ」


彼女の求めるソレは、人の本能が1番現れるモノ。俺だって人間で、しかも男だから、彼女を自分のものだけにしてしまいたいとか、狂わせてしまいたいとか、そんな事を思ったことだってある。別に他人がどうなろうが関係ない、むしろいつも理性で自分を庇ってきたやつが本能に従えばどうなるのか気になるが、その半面本能とは恐ろしく醜いものだということを俺は知っている。
俺は人が好きだ。人間の行動、言動、純粋な所、醜い所も全て含めて、俺は人間という種族が好きなのだと、そう思っていた。でも彼女だけは特別、他人とは違う純粋で居て欲しい存在。


(俺は純粋に君を“好き”で居たい)


今だって彼女に触れたいのを耐えている。目の前で泣きそうな彼女を抱きしめてキスをして、その存在を確かめたい。でもそんな事をしたら俺は自ら彼女を手放してしまうかもしれないのだ。“醜い姿”を晒している彼女を完全に愛せる自信を俺はまだ持てなかった。
迫る顔から目を背ければ、彼女は心底辛そうな顔をした。別に処女でもない癖にと投げるように呟いて、俺は彼女の手から書類を奪い返した。


「髪、乾かしてあげるから。服着てきなよ」

「…」

「名前」


ふわり、と髪に触れると、まだ濡れたままの髪が俺の手に水を垂らした。嗚呼、このまま本能に従ってしまえたらいいのに。彼女の長い髪を口元に引き寄せるが、彼女が立ち上がった瞬間にするりと逃げるように指からすり抜ける。小走りで浴場に向かう彼女の後ろ姿に、俺は思わず目を背けた。


「…弱いよね、俺って」
















(そんな言い訳ばかり)

























110128
折原=エロスの常識を覆したかったorz我には無理だった
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