過去ログ | ナノ






“綺麗だね”と言うと、彼女は何も言わなくなる。美人だと評判な彼女はそれくらい自覚はしているようだし、自分を綺麗だと思っていないという訳ではなさそうだが、ただその言葉に悲しそうな顔をして口を閉ざすのだ。


「あたしもいつか枯れるよ」

「君はいつまでもそのままさ。ていうか俺がそうであってほしいね。俺もっていうのはあるけど」


万物には“老い”がある。人も機械も自然も全て、時間の流れには逆らえない。だからこそ人はモノを“美しい”と思い、その感情を残そうと努力するものではないだろうか。人間は美貌を保とうとするし、機械は錆びないように、自然は枯れないように、自分の知恵を最大限に駆使して、自分が1番輝いている時を出来るだけ維持しようとする。勿論、誰もが永遠なんて本当にあるとは思っていないだろうが、無いものだからこそ望んでしまうのが人の性。儚いものにこそ、愛を見出だしてしまうのかもしれない。
波江が買ってきた玄関先の花を見て、彼女は何も言わずそれに手をかける。水分の要らないその花は、軽い力だけでパリッと音を立てて砕け落ちた。ほら、またあの目だ。悲愴感を漂わせる冷たくも暖かくもないあの目。


「臨也は永遠なの?」

「違うよ」

「永遠になりたいの?」

「出来れば」

「臨也もいつか枯れるでしょ」

「多分ね。人には永遠なんて無いから。所詮俺の望みなんて叶わないって事」

「あたしもいつか枯れる」

「でもその花は枯れた訳じゃないよ」

「…」

「ドライフラワー。人が花の美しさを保つ為に生み出した技術だろう?永遠を求めるのは俺だけじゃない」


人が美しさを求めた結果、花はみずみずしさを失った。その代わり新しい美しさを手に入れ、人々はそれを愛で、また“美しい”と思うようになった。形は違えど、それはまた“永遠”に近付いた証、美しさの連鎖。それなのに彼女の表情は変わらなかった。


「この花は、本当にそれを望んだの?」


閉ざしていた口を開くと、彼女はそう言った。


「たった一輪だけ乾かされて固まって、綺麗って言われるだけの存在になりたいと、この花は望んだの?」

「さぁ。花は喋らないからね。気持ちがあったとしても、人間には分からない」

「…人間は醜いよ」


渇いた葉が彼女の手によって砕かれる。散らかった破片は既にゴミと化し、さっきまで花を彩っていたものとは思えない程邪魔に思えた。不快そうな顔をして、彼女は指についた葉の破片を叩き落とし、呟く。


「…人は、醜い」


そう言われれば自分の事も他人の事も不快思えてくるのに、消え入りそうな程小さい声で“醜い”言う彼女の姿があまりにも美しくて、その矛盾を逃がさまいと、俺は無意識に彼女を抱き寄せていた。ほら、人は永遠を求めながらも、儚いもの程好きなんだ。その矛盾を楽しむ自分に酔っているんだ。嗚呼、醜い。あまりにも醜いよ。彼女を抱きしめる力を強めると、なんだか自分がおかしくて笑えた。



「君は、綺麗だね」



横目で見た彼女のその表情は、まるで枯れかけた花を見ているようだった。















(私は君と共に散りたい)


























110117
あけましておめでとうございます_ノ乙(、ン、)_そんな訳で今年初の折原ですけど、鬱ポエム過ぎてわろた

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