過去ログ | ナノ






人と人とがすれ違って去っていく。今隣にいた人の顔なんて、5秒後にはみんな忘れる。朝には通勤電車の音、昼には待ち合わせ場所に集う人の声、夜には光出した街灯が煩いこの町で、俺は今日も日常を過ごしていた。
いつも通りの黒いコートを羽織っていても、統一感の無い人々の中ではさして目立つ事もない。人の流れに逆らわず、目的も無く歩く。脳はただ目の前の映像を取り込んでいた。


「…」


周りの人間には、今俺が何を考えているかなんて分からない。知ることもない。それと同様に、俺もまた彼らの思考を知る事はない。彼らと俺の関係は“今この時この場所でたまたますれ違った中の1人”というものだけ。
それでも俺は、そんな人混みの中を見つめ続けていた。いつか、“恋人だった”彼女を見つけられる事を自分でも気付かない程密かに祈りながら。


「……」


平然と歩きながら少しずつ視界から人を消していく。興味の無い人間を視界に入れるつもりは無かった。
何かずっと同じ事をぼんやり考えながら目的も分からない思考を巡らせる。用も無いのに雑踏を流れる意味は自分でもはっきり掴めない。ただ1人で部屋に閉じこもっているよりは幾分マシなのではないかと思ったのだろう。今日は波江も来ないし、家に居ても気が紛れる事はない。
虚ろな目は動き続ける人を映し続ける。多分、つい10秒前まで映っていた人はもうこの視界には入っていないだろう。といっても、確認する術もないが。


不意に光が見えた気がした。薄暗かった世界が少しだけ開けたような感覚。鬱屈としていた脳が冴え始めたようで、俺は気付くと目を見開いて世界を凝視していた。
彼女だ。あの背中は絶対に彼女だ。俺が間違える訳がない。だって俺以上に、彼女を愛してるヤツなんてこの世界には居ないんだから。


「―――…名前、」


もうずっと開いていなかった口を開いて、俺は彼女の名前を呼んでいた。声は発していなかったが、きっとさっきまでモヤモヤと考えていたのは彼女の事。ずっと彼女の名前を呼んでいたのだ。多分、そうしていないと立っていられなかったような気がする。名前、名前、こっちだよ。
俺はここにいるよ。


「名前ッ」


距離のある場所で、声に呼応するようにその背中は立ち止まる。ほら、やっぱり通じてるんだ。名前、戻ってきてよ。俺は君が居ないと生きていけないみたいなんだ。ねぇ、名前―――


世界が完全に開けた頃には、彼女の姿はもう見えなかった。










 





(心で泣いた、街の中で 1人)

























100914
恋しくて/UVERworld:乃亜様リク
なんか女々しい臨也になってしまった(´д`;)どちらかというとサイケたんチックな…
今回はリクして頂き本トにありがとうございました!素敵な曲にも巡りあえて嬉しいです^^//こんな話でよかったらお持ち帰りくださいorz

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