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それは2人きりの簡単なゲーム。“お互いを異性と意識してはならない”。そんな単純な、かつ暗黙のルールに縛られた、臨也と名前、2人きりのゲームだ。
名前は臨也の家に居候している身で、昔からの知り合い。彼女も裏の世界に仕事を持っている1人だが、表向きにはただのフリーターだ。彼の家に居候するという形の同居は、彼女にとって余りにも自然だった。


「なんか悪いねぇ、自分の家みたいにくつろいじゃっててさ」

「悪いと思うなら出て行ってよ。どうせ金なら山ほどあるんでしょ」

「そりゃそうだけどあんま使いたくないってか」

「だからって何で俺が君の食費まで出さないと行けないのかが分からない」

「臨也は優しいねぇ」


バカにしたような名前の言動に、呆れた表情で答える臨也。いつものようにパソコンに向かう彼の姿は見慣れたもので、名前は構わず彼に話し掛けていた。
不意に時計を見れば11時を少し回った辺り。一息ついた臨也は、伸びをしながら名前に告げる。


「お風呂でも入ってきたら?」


そう、そのゲームのルールは、お互いを異性と意識してはならないという単純なものだけ。相手をどれだけ親密に想い、どれだけ家族愛に近付けるかを争う、“単純明快”なゲーム。


「そうだね、じゃあ臨也も一緒に入らない?」


日々をそのゲームに引きずり込んで、自然を装いながら相手の隙を伺う。いつ相手がミスをしてもいいように、自分もギリギリの反応を返す。“恋愛感情ではない”。それを押し付け合う、なんの意味も得もない、だが損もない暇潰しを、彼らは永遠に繰り返していた。


「それは、襲ってくださいとでも言ってるの?」

「バカだなぁ、あたしの裸見たってなんとも思わない癖に何言ってんの」


苦笑するのはいつもの事。それが何を意味しているのか、彼らはお互いに理解しながらも理解していないフリをしていた。負けず嫌いの2人は、何処まで自分を追い込めるのか、何処まで相手の本音を追求出来るのかを探り合っているのだ。
どうせお互い、好きな癖して。


「じゃあ一緒に入ろうかな」

「…え゛」

「何その反応。君が言ったんだよ?一緒に入ろうって」

「いや、でもいつもは断られるし」


あからさまな動揺を見せる名前に、臨也は平然と対応している。座っていた椅子から腰を上げると、臨也は名前の居るソファーまで歩み寄った。大きめのクッションを抱き抱えたまま固まる名前。その目は臨也の赤い瞳に捕われて動けない。少しだけクッションを握る手に力が篭る。気付けば彼の顔が目の前にあって、名前は反射で強く目を瞑った。



「アウト。」



トン、と額に触れられる感触。恐る恐る目を開けると、先程より距離を取った彼がこちらを見つめながら人差し指を軽く押し当てていた。臨也の言葉を思い出し、あ、と自分の失態に気付く名前。あたし今、もしかして―――


「ミスった?」

「うん。まぁ、ぶっちゃけ何が間違いなのか正確には俺にも分かんないけどさ」

「やだやだ!今の無し!臨也に負けるとかやだ!もっかいやろう!」


玩具を取り上げられた子供の様に異議を申し立てる名前だったが、振り回した腕を掴まれた途端に動きを止めた。


「もうやめよう。このゲームは」


真っ直ぐに刺すような臨也の視線が名前を捕らえる。見たこともない真剣な表情の彼に、名前の思考は一瞬停止した。そのまま彼女の胸辺りに顔を埋めると、臨也はぽつりと呟いた。


「もうこんなゲーム、2度とやらないから…」

「臨也…」

「大体、意味が分かんないよ。何でこんな事始めたの」

「…」


「何で名前が好きだって言っちゃいけないの」


目的があった訳ではない。どちらが始めたという事もない。ただ自然に出会った頃から始まった、どうしようもなく無意味な遊び。それだけだったのに、お互いにこんなにも想いを押し込めていたなんて。バカらしくて仕方ない。


(きっと臨也も一緒だったんだ)


ただ負けず嫌いで、だから無意識に始まったゲームとはいえ負けられなくて、素直になれなくて。きっとこんな気持ちなのは自分だけなんだって割り切って、淋しいと思いながら毎日を送ってた。きっと、2人共同じだったんだ。
子供のような彼を見て心の中で驚きながらも、名前の口は綻びていた。一体何の為の意地だったのか、今となっては分からないが、そんな事はもうどうでもよかった。初めて世界にその存在が認められたような安心感と共に、背中に回された腕の温もりを感じながら、名前は今まで手に入れる事の無かった幸せを噛み締めた。












(苦痛よ、さようなら、さようなら)
























100714
music:ハチP(sm9129998)恋人のランジェ
全然ランジェの雰囲気と違う…我はこんなのほほんを書きたかった訳じゃない…!ダメだ…ランジェリベンジしたい…

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