過去ログ | ナノ






「臨也ってカラスみたい」

「…どういう意味?」


不意に彼女が口にする。外はもう夕日も落ちて空の端が深い紺色に染まっていた。街灯やビルの明かりが自己主張を始めたその街中を見ながら、彼女は楽しそうに続けた。


「黒いし」

「コートに黒が多いだけでしょ」


クスリ、と笑う名前。俺はパソコンに目を向けて、いつもの様に作業を繰り返していた。…カラス、あの真っ黒い鳥にはいいイメージが無いのが一般的だろう。ゴミは食い散らかすし、鳴き声は煩いし、何より見た目が狂暴そうで、見る人によっちゃ恐怖を覚える。生活の敵、とでも言うべきか。


「どれだけ追い払われてもまた同じ場所に現れる、それがカラス」

「彼らの場合は本能だよ」

「臨也も本能じゃないの?池袋には来るなって言われてるんでしょ?」

「…、そうかもね」


あの街は情報に溢れている。自分の生きていく為に必要なモノ。それを集める為に俺はあの街に向かうのだ。いくら忌み嫌う天敵が居ようとも、情報屋として、カラスのように嫌悪される職業の者として。


「カラスは一夫一妻なんだってね」

「凄いね、一生夫婦って事?」


関心して問う彼女に特に返事は返さない。彼女は俺を見ながらいつもの様に微笑んでいた。ただ満足げに、獲物を捕らえた鴉の様に。


「じゃああたしもカラスって事か」

「嫌?」

「臨也と一緒ならいいんじゃない?」


まるで他人事のように疑問形で答える彼女に、俺は思わず手を止めた。俺達はカラス。夜に紛れるその羽を羽ばたかせながら、人の視線も気にせずに、自分の目的の為に飛ぶ。俺も彼女も、ただ自分の本能の為にここに居る。
―――そう俺達はカラス。


「また池袋に行くの?」

「まぁね。あの街は俺の縄張りだから」

「敵も居るけど」

「それでも、待っててくれるでしょ?」


わざとらしく笑って見せると彼女もまた笑みを返した。するりとあの黒いコートに袖を通せば名前はそれがさも当たり前のように擦り寄って来る。そのまま流れるように触れるすれすれのところまで顔が近付いたかと思うと、彼女はまたあの微笑みを浮かべてこう告げるのだ。



「カラスですから」
















(鳴くカラス)
(泣く枯らす)

























100710
ぶっちゃけ何も伝わらなくていい話です。意味は無い。ただ夕暮れに学校の屋上にとまっていたカラスが気になっただけの話。

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