part...01



私の名前はアリッサ・ドトール・アミュレイト。

上にお兄様が3人いる、国の第一王女。




アミュレイト国は大国、アシュタンス国、ベルドラ国、レパード国と近い小さな国。

小さいけれど、大国が近いこともあってそれなりに栄えてはいる。


けれど、近年少々食糧不足にも悩まされ…私たちも城に小さな農園を立てなんとか頑張っている。


いや、父と母は反対したけれど、私たちばっかりが裕福に暮らすのは間違っている!!って無理矢理作ったんだけど…。







「お父様とお母様は、なぜ私がこんなことをやるのを嫌がるのかしら?」

肩を落とし落ち込むアリッサ。



「大事な一人娘が、手を土で汚すのが嫌なのではないでしょうか?」

「でも、別に悪いことではないでしょう?国を思ってこその行動なのに…反対する意味がわからないわ」

「うーん。親心は難しいのだと 思いますよ?」


侍女たちは苦笑いをする。

きっとお父様たちは一人娘の私の将来が心配なのかもしれない。


今年二十歳を迎えると言うのに、恋を一度もせず、ずっとここに居座っているのを…。

もちろん、居なくなったら寂しいって言ってくれるけれど、やはり誰かと一緒になって欲しいとも思ってるみたい。


でも、この深刻な食糧不足のため…どこか遠くに嫁いで国を救いたいと言う気持ちは確かにある…けど、愛のない結婚なんてぜーったいにしたくないの!!



だけど…きっとそんな事は言っていられなくなるんだろうな…。



 −−−


静かに食事を取っていると、母親は手を止めアリッサを見た。



「あなた、今日もやっていたの?」

「…栽培の事ですか?いいじゃない、それを作ってここで調理してもらって、自分たちの食べる物を少しでも補えているんだから!」

「それについては反対はしていないでしょう?でも、あなたみたいな子が手を汚してまでそれを手伝わなくても、やってくれる人間はいるじゃない」



でた。

"権力のある人間はそこまでしなくてもいい"って考えのお母様。


いい人ではあるけれど、他国からやって来たお母様はとてもよく育てられたみたい。 下働きはお手伝いだけがやる、って考えは…私は好きじゃない。


「…はあ。あなたを妃として迎え入れてくれるって方がいるのよ?もう少し自覚を持って」


え?ちょっと待って…何それ、何よそれ!?

当たり前のようにさらりと言われてしまった言葉を、そう簡単に受け入れるわけがない…第一急過ぎるにも程があるわ!



「どうしてよ!この前はまだ…」

「もう結婚していてもおかしくない歳でしょう?ベルドラ国のミハエル様が、いいと言ってくださったわ」

「それで、私を見売りするってわけなの?」

「そう言ってないでしょう?!」

「言っているのと同じよ!確かに、国の事も考えて動かなきゃいけない人間だけれど…どうしてよりにもよって最低な噂しか聞かない方に嫁がなければならないの!?」


女たらしで、お金にも無頓着、あげくいらなくなってしまった女性をすぐに捨てるような最低な方に…。

それだけは絶対にいや!!

だったのに、次の瞬間お母様にぶたれてしまっていた。


「我儘はこれくらいにして。国のためなのよ」


厳しい口調で言われ、何も…言い返すことが出来なかった。


溢れだした涙に堪え切れず、その場を飛び出してしまった。


あの場で"ごめんなさい"って言ったらよかったのだろうか…でも、どうしてもそこには嫁ぎたくないって気持ちが大きすぎて…嘘をつけなかった。

人づての噂を当てにはしてはいけないけれど、でも…実際にそう言う子とも式で会って話を聞いたことがある「あの人だけは気をつけて」って…。


だから嫌なの、幸せになりたいのに…やっぱりこういう立場の人間は、それを願っちゃいけないの??







気が付いたら、外に飛び出していた。


城を出たら…気を変えてくれるだろうか?


そんな淡い期待を抱いて、城をこっそり抜け出した。

雲ひとつない、月明かりの眩しい日…今日は三日月だ。

しばらくして歩き疲れてしまった私は、本当に何にも出来ない人間なのだとわかった。


だけど、それでも…



「…今は、帰りたくないなあ」


子供のように駄々をこねる私を誰が心配してくれるだろうか?


してくれないかも…「あまり困らせちゃだめだよ」って言い聞かされそうで、嫌。 かと言って、ここで座り込んでいてもただ危ないだけかもしれない。




「あんた、高そうなの身につけてるな」

「どこかのご令嬢か?」


不意にそんな言葉をかけられ振り返ると、数人の男が近づいて来る。 これは、非常にまずいかもしれません。


「君みたいな世間知らずが、夜にうろついてちゃ危ないよ?」

「そうだ、俺らと遊ぶ?」


悪寒が走った、これは冗談抜きでまずいかもしれない。

立ち上がって逃げようとしたけれど、それも虚しくあっさり腕を掴まれてしまう。



嫌だと首を振ったって聞き入れてもらえるわけもなく、このまま死ぬのか、それとも多大な迷惑をかけてしまうのか…。


恐怖の中に呆れた顔をする両親の顔を思い浮かべてしまっていた時、唸る声が聞こえた。


「お前たちも、夜にずいぶんと不躾なことをするんだな」


暗がりから声がし、その人の姿を確認しようとした時、周りにいた男たちは次々に倒れ。

最後に、私アリッサの腕を掴んでいた方はやめてくれとせがみ両手を上げた。




「こいつがヤメテくれって言った時…やめなかっただろ?」







やめねぇよ。


と嘲笑まじりに言うと、拳は男目がけたが、あと数センチと言うところでぴたりと動きを止めた。


「消えろ」


低く言われた言葉に身体を硬直させ、倒れていた男たちを起こしそそくさと立ち去っていった。

力が抜けたアリッサは、胸を撫でおろしその場にへたり込んでしまった。





「あんたも、またそんな高そうな物を身につけて…しかも、こんな人気のないとこうろついてるのが悪い」

「は、はい…申し訳ありません。助かりました」


顔を上げたアリッサは、男と目があった。



今までに感じた事のない胸の高鳴りに硬直しているが、また男もアリッサを見つめ目を見開いていた。

はっと我に返り、見つめられている恥ずかしさに顔を背けどうしたのかと尋ねる。

「い、いや…」

男も目を背け、そして気がついたように手を差し伸べる。


少し躊躇いつつも、男の差し出して来た手を取ると力強く立たされ驚きに言葉を失う。


「あんた、ちゃんと食ってるのか?」

「た、食べてます!ちゃんと、残さずに好き嫌いもなく食べてます!」

「そこまで聞いてないが、お姫様にしてはいいことじゃないか」


少し必死に言うアリッサを見て、可笑しかったのか男は笑った。

それを見たアリッサは少し頬を染め、目があるとすぐに顔を反らし瞬きをする。


どうしたんだろ…私が私でないみたい。



「どうしてこんな所に居たんだ?…どっかの金持ちと結婚しろ、とでも言われたのか?」

「よく、わかりましたね…」

「感で言ったんだが…でも、あんたみたいな世間知らずが我儘言って城でたって、さっきみたいになるだけだぜ?」



わかってる、ただ少し心配して欲しくて出て来たの…城を出たって、私は温かな環境で生きてきて、外の辛さなんてちっともわかりはしないの。


それでも反発したくなってしまったの…。

「時には我慢も必要ってことだ。送ってやるから来いよ」

アリッサの考えていることがわかっているのか、男はそう言う。



「私が帰る場所、ご存知なんですか?」

「お姫様の帰る場所は城しかないだろ?」



そうだとしても、さっきの人たちはどこかの御令嬢だって勘違いしてたのに…。

と男を不審に思ったが、先に行ってしまった男の後を小走りで追いかけた。









あっという間に城まで戻って来てしまった。



「正面から堂々と入るのか?」

「…私が出た事なんてどうせばれていないので、またこっそり中に入ります」

「そうか。もう危ない事はしない事だ」



じゃあな。と背を向け歩きだした男を、アリッサは気付いたら引きとめていた。


腕を掴み、行かないでくれとせがんでいるように…。



「どうした?」

「いえ…先程は本当にありがとうございました…お名前を、教えてはいただけないでしょうか?」

「やーだね。俺だって悪い奴だから。あんまりかかわらない方がいいぜ」



アリッサの掴んでいた手をどけ、一度笑いかけると振り返ることなく来た道を戻っていってしまった。

小さくため息をつき、こっそりと中へと戻った。


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