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それからは鍛錬の毎日。

休みを見つけては親父に教えてもらい、知り合いと剣を交えたり…。

仲間は何をそんなに頑張っているのだと、焦らずともいいじゃないかと俺の努力を笑うが、そんなゆっくりじゃあの人には絶対に勝てない。

父と、そしてあの人はそのずっと先を一人で歩いているのだから、もっと、もっと頑張らなくてはいけない。


負けてでも、どんなに恥に負かされようが大人に全力で立ち向かった。













「…強くなったな、リッド」

小さい時以来、親父からこの年になり言われた褒め言葉だった。

嬉しくて、照れくさくて…まだまだ追いつく事は出来ないが、すごく嬉しい言葉に目頭がなぜだか熱くなった。




「ルーベル様、手合わせお願いします!」

「…ふん、また来たのかジュニア。少しは強くなったのか?」


夜中、一人鍛錬するルーベル様のもとへ行ってはお決まりの言葉を言い、そして負かされる。

この年の男は成長の真っただ中、それは俺だってあの人だって同じで、一段と力も体格も良くなられ俺はどうにも追い付いているとは思えなかったが、それでもよかった。

少しだが、他より仲良くなれている気がして…。



「お前、殿下と仲いいのか?」

「どうして?」

「あの人が人と長く話しているのをあまり見ないからな」


笑顔は見せないものの、確かに会話の受け答えは前よりも多くなった。

話すのは得意じゃないし、自分の思った事をストレートにぶつける事の出来ない人だから尚更とっつきにくく、強情に見えてしまうのはやはり仕方のない事なのだと思う。


その中で、一体俺に何を言いたいのか、口調は厳しいが本当は別にそんな事を思って言っているんじゃない…つまり、天の邪鬼。

会話の中でそれが本当なのかそうでないのかは、表情を表に出さないこの人から読み取るのは本当に至難の業だ。

誰も近寄らないあの人と話のは昔からロジウム様と途中から嫁いで来たメルディア様、そして親父だけがよく話をしに行くのを目にしていた。




「ああ、君がフィーネル隊長のご子息か?」


そう話しかけて来たのは、まだ国王に成り立てのロジウム様だった。


「前々から話たいと思っていたのだが、なかなかね…」「いいえ!私みたいな者に陛下から話かけてくださるとは…!」

「畏まらなくていいさ」


慌てる俺を見た陛下は笑い、気さくに肩を叩き力を抜けと言った。


「あの、俺に何か…」

「いや大した様はないさ…ただ、ルーベルが他人と長く会話をするのを珍しく思ってね」

「……」

「見放さず、あいつの相手をしてやってくれ。私には腹を割って話をしてはくれないから…」


寂しそうに笑うこの時の陛下の顔を今でも覚えている、この時はまだお2人の関係を知ってはいなかったから、なぜそんな表情をするのかがわからなかった。



 ―――


時はさらに流れ、二十歳になる頃だっただろうか…親父が病気で床に伏せた。

小さい時からの目標で、ルーベル様ですらてこずる父を越える事を懸命に頑張って来た。

そんな父の弱って行く姿を見ているのが辛くてたまらなかった…。

医者の話では、もう何年も前から病気には苦しんでいたらしい、この機会だから教官を辞め若いのだから治療に専念するようにとも言ったらしいが、父はそれを断ったらしい。




古くも綺麗でも、狭くも広くもない家。

それが俺が育って来た家、母は俺を産みその後死んでしまい、親父は騎士をしながら父親らしく俺を懸命に育ててくれた。

だから、弱い父を看病するのは俺だけ…見ているのが辛い、このまますぐにでも息を引き取って楽になってほしい! …そんなふうに思うのに、一人になるのは寂しい…苦しむ父に少しでも長く生きろと唱える自分が、少し腹だたしかった。





そして数日後、親父は静かに息を引き取った。

親父を慕いやって来た客の応対をし、やっと落ち着いたのは夜中だった。


「隊長、残念だったな」


突然やって来た殿下にすごく驚いたが、見舞いの品を持ってやって来たのを見て少し胸をなでおろした。
俺の座っている向かい合わせの席に腰を下ろすと、小さいため息をついた。


「…前、お前に決闘を申し込んだら断られたと、隊長笑っていた」

「ああ、ありましたね…」

「なぜ断ったんだ?まだ床に伏せる前だぞ?」






「…越えるのは目標でした。でも、それを越えてしまってから俺は次に何を目標にしていいのかわからなかったのです。だから、親父には小さいころからあこがれ続けた強いままの父で、心の中にいてほしくて…断りました」


親は年を取る、子も同じように年を取る。

越えるのは簡単だ、でもあえて断ったのはそんな小さな希望を残したかったから…。




「…最初で最後の師は、フィーネル隊長ただ一人だ…お前もそうだろ? リッド」


知り合って数年、初めて名前を呼ばれた瞬間だった。

思わず顔を上げた俺に笑いかける姿を今でも鮮明に覚えてる。

落ち込んでいる俺に元気を出せと…そう言ってくれている様で、すごく嬉しかった。








それからしばらく、父の次に隊長になったのはルーベル様だった。

初めての実戦でかける姿はどこにいてもわかる程勇ましかった。


「おめでとうございます。殿下」

「まぁ当然だな」

「またそんな自信たっぷりにしていると、皆に妬まれますよ?」

「言いたければ言わせておけばいいさ」


貴族でルーベル様を妬むものはやはり少なくない、でも、努力もせずに文句ばかりを言う人に俺はもう迷ったりはしない。



「ああ、リッドお前副隊長にしておいたから、しっかりしろよ」

「そんな大事な事をさらっと言われても、全然ありがたみがありませんねぇ」


もっとこう、喜べ!みたいなものじゃないのか?

親父は相当喜んで帰って来たのを覚えているが…まぁ、この人にそんなことを望んでも仕方がないか。


「いいのですか?私で」

「あぁ。あいつらの中じゃ腕はいいし頭は切れる…適任だろ」


もうほんと喜びの薄れるような言い方だ、でも、そう思ってくれているのは嫌ではない…見ていてくれていたのだと嬉しく思う。

ぶっきらぼうだが本当に優しい方なんだ、だから、早くルーベル様が安心して寄り添えるような…そんな方が来てくださる事を待ち遠しく思う。


もちろんルーベル様に言いよる方はたくさんいる。


その中でもアイナ、と言う方が一番ルーベル様に近いような…じゃないな、後をついて回るのが多い。

鬱陶しそうにしているが、夜は一緒に過ごされる回数が多いのはアイナ様だ。


「また昨晩もアイナ様と?あまり構い過ぎるとまた面倒なことになりますよ?」

「あいつは他の女と違って、俺の愛とやらをしつこく求めてはこないからな」ルーベル様は女性に愛情を求められるのが嫌らしく、それをしつこく言い求める方たちを無視してきた。


そのたびに腹をたてた女性はルーベル様をひっぱたいたりもしてるが、黙って睨みつけられ走り去ると言うのを何度も見た。


「いい加減誰かに落ち着いてはどうですか?」

「お前もそろそろ誰かと付き合って結婚でもしたらどうだ。侍女から言い寄られてるのみたぞ?」


うっ、そんな所を見られていたなんて…楽しそうに笑っているのが何とも腹の立つ。


「お、俺のことはいいのです!あなたは世継ぎを産まなければならないでしょう?」

「メルディア様がいる、俺はいいんだ」

「でもメルディア様は…」


メルディア様はロジウム様の王妃。

歳はルーベル様と変わらず、ロジウム様とは差があるものの、式典で初めて会ったとき見事陛下のハートを射止めたらしく、そして同様にメルディア様もロジウム様の優しさに惚れ込み、王妃として迎えられた方だ。


失礼だが、見かけよりもとても幼く見えルーベル様と歳が近いとは思えない。


「……まだ若い、あいつの楽しみもこれからだろう」「えぇ…とにかく!早く一人の方に絞っていただかないと、俺も困ります!なぜ俺が女性からの愚痴を聞かなくてはならないのですか!?」

「何で、って。お前が一番俺の近くにいるからだろ」


いるから、と言えばまぁそうですが…。

色々俺に用事を遣わすのだから、この人の近くに居るのは当たり前のことで…て、この人にこんなことを言っても意味はないか。



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