この世に生まれ堕ちたその時から、もうこの運命が決まっていたのなら。


それはどれだけ、残酷なことだろう。









君と交わした久の約束
(それは守れる筈のない、言葉だけの約束)












「綱吉…!!綱吉っ…」


何度名前を叫んでも
どんなに躯を揺さぶっても。


その瞳は、瞼に隠れたままだった。


傷口から流れる鮮血の暖かさと引き替えに、確かに低くなっていく体温は、まるで地獄へのカウントダウンのようで。

怖くて怖くて、でもどうにもならなかった。


「お願いだからっ…目を開けてよ…」


ポタポタと雨のように頬を伝って落ちる雫は、抱きかかえた綱吉の頬へと降り注ぐ。


もしも神様がいるのなら、どうかこの子を殺さないで。


今まで一度も信じたことのない存在に縋ってみても、やっぱりそんなものは気休めでしかなくて。


痛いくせに、苦しいくせに、辛いくせに。


僕の腕の中で僅かに口角をあげて微笑んだ君は、儚げで美しくて、そして僕に残酷な呪いをかけたんだ。


どうして守れなかった?


どうしてあの時、庇うことすら出来なかった?



―――どうして。


あぁ、そうだ。


きっとこんな世界を闇というのだろう。


黒塗りの世界に、僕は堕ちたんだ。












…いつだったか、君が言った。


「もし俺がいなくなっても――」


あり得ないから答えられないと、君の頬に触れて、不安を抱いた自分を誤魔化した。


こんなこと、もう思い出すことはないだろうと。
そっと心の片隅へと追いやったのに。


こんな風にして、思い出す日が来るなんて。

























「もし俺がいなくなっても、雲雀さんには笑っていて欲しいです」


そんな約束、守れるわけ無いじゃない。
大体、僕は好んで笑うことなんてしてないんだから。


僕には、君しかいないのに。


君がいないなら、僕は何の為に生きていくのかすら、もうわからないのに。

だったら

君の声を忘れたい。
灼き付いた感覚を、熱も全てを消し去りたいんだ。



そうでなければ僕は、きっと君の名前を


永久に叫び続けてしまうから。





fin
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