あー、くそ。サイッテー。
ついてない。
こんな情報事前に知らされてないわよ。
もっとちゃんと調べてよね。
おかげでお腹に要らない穴空けられちゃうし。
任務失敗しちゃうし。
ぜってーぶっ殺される。
でもその前に死にそう。
最期の瞬間がこんなきたねー路地裏とかマジあり得ない。
やってらんないっての。
あーしんどい。苦しい。寒い。

今のこの状況がバカバカしくてどーでもよくて。
さっさと死ねないかなぁと願っていたけれど、無駄に私の生命力ははんぱなくて思わず苦笑。
ポケットを漁るとタバコがかろうじて一本残ってた。
まだちょっとツキがあるみたい。
なけなしの体力でライターを探し出し、タバコに火をつけようと試みるもカチッカチッと空しい音をたてるだけ。
だーめだ。やっぱついてない。
ライターを投げ捨てて灰色の空を仰いだ。
真冬の空は実にセンチメンタルで、どんよりした雲が私を覆う。
私はギュっとタバコのフィルターを噛み締めた。


ザリッザリッ


昨晩から積もりに積もった雪が悲鳴を上げる。
視線を空から落とすと、死神が居た。


「わぉ。驚いた。今時の死神は随分とイケメンなのね。」
「くだらねぇ事言ってんじゃねぇ。」


死神は、自慢の銀色の髪をなびかせて、気怠そうに私を見下した。


「随分派手にやられたじゃねぇか。」
「ええ、まったく。」


私の血で真っ赤に染まった雪を掴み上げると、指の隙間から雪がボトボトと落ちていった。


「もうちょっと、さ、しっかり調べてくんない?あんなところにFBIが居るなんて聞いてないわよ。」
「顔はみられたか。」
「さぁ…?でも…恐らくは……。」


手の平の残った雪が、べちゃりと音をたてて落ちた。
沈黙、沈黙。


「…ねぇ、こんな事してる時間、ないんじゃない?さっさと用件すませなよ。」


努めて笑って言ってやった。
その方が私らしいでしょう?
悟ったのか、死神は一瞬笑った、気がした。


「そうだな。」


死神は私から視線を外す事なく懐からベレッタを取り出すと、突きつけてきた。


「ふぅん。今時大鎌じゃないんだ。」


笑って、目を閉じる。
言いたい事なんていっぱいあったけど、全てがアホらしくてやめた。
私は駒で、貴方は幹部で。
貴方は司法で、私は被告。
スッキリしていて気持ちがいい。
そんな死に方なら構わない。
だってしょうがないじゃない。
お腹に大穴空けられちゃったんだから。

カチャリとトリガーに指を掛ける音が聞こえた。
あー、死ぬんだなぁ。
銜えてたタバコをもう一度強く噛み締めた。

そうだなぁ。
最期にもう一回タバコ吸いたかったかなぁ…。













急に口から異物感が消えた。
てっきり次に来るのは大きな衝撃かと思ったのに、予想外の出来事に目を開けてしまった。
でも目の前に居るのはベレッタを構えた死神ではなく、銀髪と、エメラルドグリーンの瞳。
そして私とは違う銘柄の香りがふわり舞ったと思ったら、唇に感じる新たな感触。
ぬるりと口に侵入する異物。


「ん…う……。」


まさか、ありえない。
私は駒で、貴方は幹部で。
貴方は司法で、私は被告。
そんな二人がキスとかありえない。


「ジ……ン…。」


ありえないんだよ。

















口から異物感が消える。
エメラルドグリーンは、まだ私を捉えている。
死神は、笑わない。

何か伝えればよかったのか。
何か文句でも言えばよかったのか。
情けない事に私はただ唖然と浅い呼吸を繰り返していた。

死神は目を伏せると、後ろを向き、私から離れて行く。
ベレッタはもう、向けられない。
自慢の髪をなびかせて立ち去って行く。
私にタバコの香りと、オスの残骸を残して。


「はっ…なによ…それ…。」


死神は見えなくなってしまった。
わたしはドサッと体を横たえた。
雪が、体にまとわりつく。


「何よ…それ……。」


判決すらされなかった。
つれていってもらえなかった。
口に残るタバコの香りが悔しくて、悲しくて、唇を噛み締めた。


「そんなの…卑怯よ……ジン…。」


滲む世界はもう見なくていいように、私はそっと目を閉じた。

死神に失恋

どうか殺してください。

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