電車に乗る時には変わっていなかった日付も最寄りの駅に到着する頃にはすっかり日付を跨いでしまった。何も珍しいことじゃない、ここ最近はずっとこの生活だ。むしろ日付が変わる前に帰宅することの方が珍しい、というこの状況がおかしいと言うのを誰か悟って欲しい。普段からなかなか忙しい職場ではあったが、ここ数日の激務ぶりは甚だしいと思う。仕事をしない上司への小言もそうだが、部下のミスのリカバリーも自分の仕事である。結局終電で帰宅し、深夜をとうに回った頃に就寝、したかと思えばすぐ起床。睡眠時間は5時間を下回る日々。人間何でも慣れると言うが、これはいただけない。普段なら一切口にはしない栄養ドリンクを一体何本犠牲にしただろうか。それも一区切り、とは言わないが、明日、ああもう今日か、は、久しぶりの休日。頼むから休ませてくれと疲労に痛む頭を眉間に手を当て抑えつつ、フラフラと帰路につく。何とか自身の住むマンションにたどり着き、昨日届いた郵便物の確認もすることなくオートロックを解除。エレベーターに乗り込み、押すのは8階。グオングオンと動くエレベーターの中で、そういえば今日は可燃ごみの日であるのを思い出した。何ということだ。ゆっくり眠る為に、今から出しに行くかと、8階に到着しエレベーターを降りながら思う。手前から4番目が自身の部屋。鍵を差し込み、回す。当然中には誰もいないので、出迎える人もいなければ、部屋は当然真っ暗。感覚を頼りに玄関の電気を付ければ、本来ならないはずの女性のパンプスがあって驚いた。見覚えのあるピンクのパンプス―元々この部屋にやって来る女性は一人しかいないのだが―を見て、真っ暗な部屋に疑問を抱く。一体どこにいるのだろうかと、廊下を歩きリビングの電気を付けた。パッ…パと時間差で着いた蛍光灯はそろそろ交え時だろうか。テーブルには、恐らく頑張って作ったであろう晩御飯が丁寧にラップがかかって置いてあった。が、肝心な人物が見当たらない。もしや、と自分の寝室のドアを開ければ、案の定探していた人物が自分のベッドの上で眠っていた。起こさないよう電気をつけず、そろりそろりと近づく。僅かにフワリと舞ったシャンプーの香りに一瞬頭がくらりとした。こっちの気も知らずに呑気なもんだ、と毒づきもするが、実際大して気にもしていない。粗方待っていたら眠ってしまったのだろう。息苦しいネクタイとジャケットを脱ぎ、適当にハンガーにかける。やれやれ、と、ベッドの脇に腰を下ろせばギシリと音が鳴った。ああ、きっとこれがいけなかったのだろう。緊張が溶けたのか、急に襲いかかる睡魔に目が霞んだ。いけねぇ、まだスラックスをはいたままだし、可燃ごみを出しに行かなくては。それにベッドにはなまえが眠っている。このまま倒れるように寝るのは不味いだろうと思うが、如何せん重い腰が上がらない。何とか起きようとするがそれも限界で、気持ち良さそうに眠るなまえの顔を見ていたらアホらしくなった。せめてソファに移動しようかとも考えたが、そもそもこれは俺のベッドであり、自分自身が遠慮する必要もないだろう、と、全身を巡る睡魔と疲労感に負けて、なまえの眠るベッドに雪崩れ込むように倒れた。


24時間戦えません。


意識が覚醒したのは肌触りの悪いスラックスの感触だった。あ゛ー、皺になっちまう、と思ったのは後の祭だったようで、スラックスだけでなく眉間にも皺を寄せて目を覚ました。いつも通りの天井を見やり、視線を横にズラせば、すっかり目を覚ましたなまえが優しく微笑んで、おはよう、と声をかけてきた。何時だ、と尋ねれば、もう11時だ、と言われ、すっかり出し忘れた可燃ごみを思い出し、手の甲で目を覆った。




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