私が貴方様の妻になった時、既に私は貴方様の一番になることは叶わなかったのです。 まだ夜も明けきらぬ頃、心のざわめきにより安眠ままならぬ私は、いつもより数刻も早く床を後にいたしました。 身支度を整えて、向かう先はいつもの間。 障子を前に座り、小十郎様、と声をかければ、中に人物の気配。 「なまえにございまする。」 入れの合図に、スと障子を開ければ、いつもの着流しとは違う、合戦への準備の整えた貴方様が居て。 「起きてたのか。」 「夫の合戦を前に、どうして安眠なぞできましょう。」 素直に申せば、貴方様は少し困ったように笑いました。 「小十郎様は、よく眠れましたか?」 「あぁ。三刻程。」 「それを眠れていないと申すのです。」 呆れたように笑えば、貴方様もつられて笑って、ただこれだけの事に、私が心動かされているのを、貴方様はご存じないのでしょう? ゆっくりと明ける東の空。 白く霞んだ空に陽が指し、小十郎様の顔を照らした。 それは暫しの別れの知らせ。 「また暫く、お会いできなくなるのですね。」 「あぁ。」 「如何なる戦場でも、どうか、ご自愛をお忘れないよう。」 「心配をかける。」 その視線は、もう私なぞ映してはいなかった。 私の言葉も、届いてはいないのでしょう。 私が嫁ぎ愛した夫には、絶対的な主君が存在して。 主君が生を受けた頃から知り、伊達家に仕えていた貴方様を知れば、私はあの方に敵うはずないと理解はできても、幼稚な心までは説得できない。 見ず知らずの、急にできた妻を貴方様は受け入れて下さいましたが、けれど貴方様の絶対的なものはいつだって主君で。 その方の右目と呼ばれているのなら。 その命でさえも、平気で失ってくるのでしょう。 それが私なら、その命、いかがなさいました? 「小十郎様、」 私がこんな浅ましい独占欲の強い女であると知れば、貴方様は私を軽蔑するでしょうか。 それを恐る私は、その言葉が喉から出ることはなく。 このドロついた感情に眉をひそめるばかり。 それを知らぬ貴方様は、私を見てくださったことなどありません。 その瞳はいつだって、あの方との天下を写すだけ。 私のことなぞ二の次に、主君に全てをささげるのでしょう。 貴方様が望むのならば、そうなさいませ。 そして 「いってらっしゃいませ。」 私を失って、私が如何に貴方様の中を占めていたかを痛感し、ひれ伏し涙を流せば良いのです。 二番目の女 愛してると言って、跪いて、 back |