「えっちしたい。」

急な発言に目の前の男は一瞬驚いた顔をしたけれど、それも束の間。
すぐにいつもの優しい目付きに変わり、くしゃりと破顔させて、それ俺様に言うー?と歳不相応の笑顔を見せた。





「なぁになまえちゃんってば思春期ー?そーゆーのが気になるお年頃なのかな?」


つっ立ってた私を手招きして、隣に座らせて頭をそっと撫でる。
いつも通りの、一連の動作。
女の子としては軽蔑されても仕方ない破廉恥な事を言ったのに、この男、佐助は何も気にしないように、慈しむように私に触れる。優しい視線を送る。
十数年、私はこの視線を受けてきた。
私が産まれる前に彼は生を受けて、私が産まれた頃から彼は私を知っている。
友達よりも近くて、兄弟よりも遠い、そんな、仲。


「そういう大事なことは、なまえちゃんの大事な人としなくちゃ駄目だよ?」
「だから、佐助が、いい。」
「あらら、それってどういう意味?聞いちゃってもいい?」


目を細めて、カラカラと笑って、私の髪の先をくるくると弄ぶ。
そんなことをするから、私が貴方にどきどきして、そして切ない想いをしてるのを、知らないでしょう?
私より歳上の貴方は、いつだって私より大人っぽくて。
この子供じみた私の想いを、するりするりとかわしてしまう。


「佐助が、すき。」


ため息を吐くかのように出た言葉は、甘い空気を作るのに一切役立たなかった。
動じることのない笑顔に、私の言葉はするりと抜けていく。


「嬉しいこと言ってくれるじゃないの。」


いつものように微笑んで、いつものように私に触れて。

親戚同士集まると、いつも貴方に熱っぽい視線を送っていたのを。
何年も前から焦がれていたのを。
ねぇ、本当は知っていたんでしょう?


「佐助…。」
「だーめ。」


おずおずと、佐助の迷彩柄のパーカーを掴んだ。
すると、私の髪を弄んでいた手が、私の手を掴む。
大した力も入っていないのに、私は導かれるまま、あっと言う間にパーカーから手を離されてしまった。
彼は、遠くから私に触れるのに、私から近づくと、逃げて行ってしまう。
貴方は大人で、とても卑怯だ。


「お子様はここまで。」


そう言って、彼は私のおでこにキスを落とした。


R-20

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