「やっぱり姫さまには、旦那と同じ緋が似合う。」


そう言い、私の結い髪に一輪の緋花を挿して下さいましたのは私がまだ幼き頃。
外を何も知らぬ私には、兄上に仕える貴方がお話してくれることが全てでございました。
その時手土産に毎度和菓子を持って来られることが楽しみであったなんて、これは内緒。
ですが、この日は一輪の小さな花を持って来られたので首を傾げたのを覚えております。
私の髪に艶やかに咲く花と私を交互に見て、可愛い可愛いと何度もおっしゃるものですから、気恥ずかしく足元の砂砂利を見つめることしかできませんでした。
その花は残念なことに数日で枯れてしまいましたが、貴方は覚えていらっしゃいますでしょうか。
あれから私が緋が好きになったことを。



「けれど貴方には、緋は似合いませんね。」



私と対を成す常盤の衣装を召したいつものお姿は、今では私の召し物と同じ緋に染まっておりました。
御揃いだと言うのに、一寸も喜ぶ気にはなりませぬ。
あの時緋の花を握っていた手は、今は朱に染まる刄を握りしめるだけ。


「似合わなく…ても……姫さまを染めるわけには…いかないから…」


すがるようにその手に触れると、刄は力なくガラリと落ちました。
刻一刻と緋に染まる貴方を私が止める術などなく、ただ崩れ落ちる貴方を辛うじて抱き止めるしかないのです。
鼻孔を掠める鉄の香が、嫌でも私に現をお教え下さいました。
膝を折って座り、そこに頭を乗せ横たえると、貴方は目を細め笑うものですから。


「へへ…忍びの俺様には……贅沢だね…」


少し明るいその頭髪を撫でれば、細められた瞳はゆっくり、ゆっくり閉じていきました。
そうですね、今はゆっくりお休みください。
そして再び目を覚ました時、外を知らぬ私にまたお話をお聞かせ下さい。


緋と泥に汚れたお顔を覗き込むと、頬にポツリと一雫。
嗚呼、雨が、




蘇芳



【蘇芳:くすんだ赤。マンセル値4R4/7】


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