「悪ぃ、さっきのプリント見せてくんねーか。」


私が目を丸くするのも仕方ないと思う。
長髪に眼帯、それにスタイルも顔も良いときたら目立たないはずがないわけで。
そんな完璧プロポーションの人物が今目の前に居るのだから。
超凡人パンピーな私が超完璧人間と仲が良いはずもなく、しかし全く面識のない彼が今私の目の前に居るのは確かで、何故話しかけられたのか一瞬理解できなかった私は固まるばかり。
他にいくらでも人は居るというのにどうしてこっちに来たんだろう。なんで私なんだろう。
そんな事を考えるも突き刺さる彼の視線に我に返り、あまりにも急な事態にパニクった私は言われるままファイルにしまったプリントを彼に手渡した。
どどどどうぞって、どもるのも忘れずに。あーしにたい。
そんな心境を知ってか知らずか、彼はThanksってバリバリ完璧な発音で礼を述べると私の隣に座った。

カバンからルーズリーフを取り出したかと思うと、プリントのメモをルーズリーフに写しだした。
それだったらコンビニのコピー機でコピーとった方が早いのに、と喉まで出かかったが、それは必然的にプリントを彼に貸し出さなくてはいけなくなるので止めた。
私と彼の関係はそこまで親しいものじゃない。
あくまで同じ塾で同じ講座を受ける、知らない人。

細い指が銀色のシャープペンを握り、HBの芯がひたすらルーズリーフにメモを写していく。
顔にかかった長髪が蛍光灯に反射し栗色に光った。
あ、髪、けっこう明るい。
染めているのかと根元を見ても黒い形跡は見えず。
肌も白いし、もしかしたら色素が薄いのかもしれない。
そして気になるのはその眼帯。
喧嘩でもしたの、ものもらいにでもなったの、それとも、


「アンタいつもこの後ろ角席に座ってるな。黒板見えんのかよ。」


急に話題を振られ、私の肩はビクリと跳ねた。
もしかして写してる間、ずっと見てしまっていたのに気づいたのだろうか、あわわわわ。
しかも考えてたことはあまり思わしくなく、後ろめたさに背中から変な汗が出た。
ここで焦ったら変に見られる。
あー、あー、なんだって?一番後ろで黒板見えるかだって?
馬鹿にしないでよ私ったら視力2.0なんだから。
がっつりばっちしだよ。
っとゆーか、


「…貴方だって、私と反対の後ろ角席にいつも座ってるじゃないですか。」

「Ha!何だ、俺のこと知ってんじゃねーか。」


あー、なんてことだ。失言だった。
発言の訂正をしようと口をパクパクさせるが彼は聞く耳持たずといった感じで、私は悔しく唇を噛む。
仕方ないでしょう、貴方は嫌が応でも目立つ存在だ。


「なぁ、大学どこ行くんだよ。」

「貴方には関係ない。」

「いいじゃねぇか減るもんじゃねぇし。」


シャープペンを走らせながら彼はよくしゃべる。
ツンケンした見た目とは違い随分流暢だと思うが、話の内容はなかなかえげつない。
誰が答えるものか、そんなシビアな話題。
返答のない沈黙に、ただシャープペンがカリカリと走る音だけが響いた。
うーん……気まずい。
こういった沈黙は苦手だ。
早く写し終えてくれないだろうか。
スラスラと書かれる文字の羅列をただ目で追うことしかできなかった。


「志望大学名。」

「え?」

「俺の、第一志望。」


彼が次に言葉を吐いたのはメモを写し終え、シャープペンを筆箱にしまったのと同時だった。
聞き返すも、差し出されたプリントを受け取る動作に誤魔化されてしまう。
聞き間違いでなければ彼は私と同じ志望大学を言ったはず。
私も同じ大学志望だよと答える前に、彼は荷物を持ち席を立ってしまった。
言う機会を逃し、あの…と弱く発せられた声も、彼のbyeという声に掻き消される。
そのまま教室を出てしまい、私は間抜けにもプリントを片手に持ち一番後ろの角席で呆けるしかなかった。
まるで嵐のような人だ。

本来ならライバルが増えたと奥歯を噛むべきであろうが、私はむしろ仲間ができたという感情が勝ってしまった。
できることなら、来年、今度は同じ講義を受けれたら。
後ろの角席で、反対には貴方が居て。
そんな夢を見るにはまだ早いとか、受験生として自覚が足りないとか、考えが甘いとか。
怒られたって別に構いやしない。
元々受験生なんて夢を糧に生きてるもんだ。
ねぇそうでしょう?


同じクラスの知らないアイツ


あ、名前聞くの忘れた。


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