受験生の鞄は、重い。
毎日出される宿題と、テキストと、参考書と、熱意と、期待と、不安と、溜め息。
重い、まるで枷のような鞄をズリズリ引きずって、学校と家を往復する毎日。
特殊な境遇の私も例外ではなく、いつものように監獄同然の校舎を抜けて、ズルズルと枷を引いていた。
違ったのは、この界隈に不釣り合いなドイツの雨蛙が校門前に居たこと。
銀髪の彼が運転席から出てくるであろう予想は至極簡単で。
案の定銀髪の彼が出て来て、「乗れ」だなんて、淡白な会話をするのは何度目か。
けれど、自宅と学校の往復の毎日に飽いた私には久しく刺激的な予感がして、相変わらずの気に入らない命令口調なのも無視して、ズルズルと枷を引いて車に乗り込んだ。
最も、この男に反論する権限など、最初から持ち合わせていないのだけれど。




「今、何年になる。」


随分おじさん臭い事を言うのね、なんて言えば、このこめかみにベレッタを押し付けられるのは目に見えて、その言葉はそっと飲み込む。
この男と会うのはそんなに久しいだろうかと思い返した時、前に会った時はこのブレザーではなく何の特徴もない紺のセーラー服だった気がして、そんなに経つかと私も十分おばさん臭い事を考えていた。


「3年…。」
「受験か。」


助手席の窓に流れる景色を目で追って行く。
木が1本、2本、3本。
このままどこへ向かうのだろうか。
どうせなら、このまま日常から拐って欲しい。
たとえそこが血みどろの世界でも。
結局は、ソコが組織に属する人間の終着駅なのだから。


「どこに行く気だ。」


結局ここでも、話題はどことも変わらず自身の進路。
この男も、思ったよりつまらない男。


「別に…」
「大学行くつもりはないのか。」
「行ったって、しょうがないでしょう。」


産まれてからずっと、私は組織の人間。
例えどこに居ても、どこに行こうとも、この人が握る鎖からは逃れられない。
来年の今頃はきっと、シャープペンではなく拳銃を握っているのだろう。


「行っておけ。」


綺麗に整ったその横顔を見やる。
彼の返答が、あまりにも予想外で。
別段頭がキレるわけでもない私は、いずれ貴方の駒になる運命でしょう?
それ以外に術のない私に、どうして4年間勉学を学ぶ必要があろうか。
どうせなら、拳銃の使い方を覚えた方がよっぽど貴方の為になる。


「経験は、積める時に積んだ方がいい。行けるなら行け。いずれ……」


彼がタバコに火をつける。
ジジジ…と葉が焼ける音。
吐かれる煙と、溢れる笑みと、覗いた八重歯。


「行きたくても行けなくなる。」



絶対的剰余価値


物事の価値観など、未来の自分がする仕事。

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