彼の存在は、私にとって劣等感の塊でしかない。 「三成!」 小学生の頃、隣に越してきた彼は宛ら嵐のようで、 それまでの私の地位を見事に脅かしていった。 三成の人当たりの悪さは酷評だったが、運動神経の良さと勉学の成績が頗るよかったのだから、そんなことは差して問題ではない。 そんなことよりも、私。 三成が来るまで成績において優等生であった私の肩書きは、彼の存在によってボロボロと崩れていく。 小学生時代など大したことではなかったが、それが中学になり、受験間近になるとそうも言っていられない。 ましてや隣の同い年同士、ご近所で私と三成が比べられるのは避けられなかった。 どこの学校へ進学するのかやたら聞きたがる町内のおばさん。 情報交換される井戸端会議。 そんな環境で否応なく見栄を気にする両親。 期待。 好奇の目。 話題。 肩書き。 何もかもでがんじがらめだった、受験戦争。 私と三成の、一騎討ちのような状態だった、戦場。 その終戦、 三成は、国立大学付属高校に入学。 私は何のことない、地方私立のブレザーに、袖を通した。 「…なんだ。」 あれからもう3年が経とうとしている。 元から会話は少なかった私達だったが、高校が別になり、その回数はますます減った。 朝、こうやって出くわすのも久方ぶり。 学生鞄を持ち、漆黒の学ランに身を包む三成は、銀髪がやたら映えた。 そのボタン。 太陽に反射する、校章の入ったボタンを、私は恨めしく見つめけた。 3年前の私が、欲しくて欲しくて仕方なかった校章。 「アンタ、大学受験どうすんの、」 「…そんなこと、貴様に話してどうする。」 玄関を出て、彼は鞄を抱え直す。 これから定期で、バスに乗り学校へ向かうのだろう。 私が汗水垂らして自転車を漕いでいる最中。 これが、私達の結果。 「なに、自信ないわけ?」 「寝言は寝てから言え。」 「ふん。」 私はサドルに股がり、切れ長の瞳を睨み付ける。 確かに、高校受験は負けた。 周りのプレッシャーに負けたなどとんだ言い訳。 三成にだってプレッシャーはあったはず。 私の行きたかった学校にアンタが通ってる時点で、それは認める。 でもそれだけ。 悪いけどね三成、高校受験なんて通過点でしかないのよ。 結局何においても最終学歴がものを言うんだから、極端な話、大学さえよければそれでいいの。高校は負けたけど、大学では負けない。絶対に。 「絶対アンタより、いい大学に行ってやるんだから。」 三成は背を向け、歩きだした。 その背中を睨み付け、私は三成と逆の方向へ向け、ペダルを漕いだ。 宣戦布告 行き着く先は、きっと一緒。 back |