試験当日の朝、私は食卓に並べられた朝食に絶望した。





「え、あさごはん……カツじゃないの?」


そんな私の問いに、小十郎さんは眉間に皺を寄せてあからさまに怪訝そうな顔。


「どうしてカツなんだ。」

「カツで、勝ぁつ!!」

「馬鹿かテメェは。」


何故なら目の前に並べられたのは、出来立てホカホカのお雑炊と味噌汁とお漬け物。
鍋の締めにやるようなごちゃごちゃしたものじゃなくて、鮭とかホウレン草とか入ってちょっぴり豪華な。
このホウレン草もお漬け物も、小十郎さんが作った野菜なんだろうなぁ。


「うっそ何言ってるんですか小十郎さん受験当日の朝はカツで決まりでしょう!カツで勝つ!!必勝!!」

「大事な朝っぱから、そんな胃の消化に悪いもん食わせるわけにはいかねぇだろうが。」

「え!?じゃあキッ〇カットは!?キットカ〇トできっと勝つ!!きっとサクラサク!!」

「あるわけねぇだろ。」


小十郎さんは呆れながら自分の分のお雑炊を並べ、何してやがる何の為に早起きしたんださっさと食っちまえ、と、怒られてしまう始末。
こんなシビアな朝に怒られてしまうだなんて。
頭垂れて、私は大人しく食卓についた。
向かい合わせに座って、小さくいただきますと言って、お雑炊を一口。
うん。おいしい。塩と醤油加減が丁度良い。
おいしいけど……
チラリと小十郎さんを伺えば、もくもくとお雑炊を平らげていた。
カチャリと、レンゲが落ちる音。

「小十郎さんは、私の受験なんてどうでもいいんですか。」


ポツリと溢れたのは、弱気極まりない言葉。
きっとまた怒られるだろうなぁと身構えたが、小十郎さんは気にしてない様子でお雑炊を口に運ぶ。


「どうでもいいなら、朝飯作ったりしないな。」


朝ご飯なんて、いつも作ってくれるじゃない。
そりゃ有難いけど、けれど。
小十郎さんを見ていられなくて、目線を自分のお雑煮に落とす。
鮭に卵にホウレン草。ニンジンに大根も入って、実に健康的。
お雑炊なんて、風邪ひいた時くらいしかまともに食べないじゃない。
どうしてそんな……




“大事な朝っぱから、そんな胃の消化に悪いもん食わせるわけにはいかねぇだろうが。”




「ぁ、」




浮かんだ疑問。
得た答え。
思わず口から声が溢れ、咄嗟に頭を上げた。
ねぇ、小十郎さん、どうして笑ってるの?


「戦に行く前に負けてるようじゃ、勝てるもんにも勝てねぇ。」

「だって…」

「下手な願がけなんて必要ないだろ。だから、」



そんなもんよりテメェを信じろ。




さっさと食っちまえよ。
先に食べ終えた小十郎さんが、食器を片付けながら背中をポンと、一度叩いた。
二口目に食べたお雑炊は、一口目よりしょっぱかった。



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