例えるなら彼は猫のような子だと思う。
フラりと現れたと思ったら、知らぬ間に姿を消してしまった。
せめて『さよなら』の言葉が欲しかったなと思いつつも、私と彼の間柄はそこまで親しいかと言うと苦笑を漏らすしかない。


「ねー秀一くん。」
「なんですか?」


秀一くんの家に上がり込み、話しかけてみるものの、反応は思わしくなく少し機嫌を損ねる。


「……蔵馬くんって、呼んだらいい?」


そう言うと、彼は困ったように笑いながら私を見た。


「どちらでも構いませんよ。」


何故彼に二つ名があるのか私はわからない。
だが、あの人は秀一くんを『蔵馬』と呼んだ。


「…飛影くん、いつ帰ってくるかなぁ」
「どうでしょう?でも、すぐ帰ってきますよ。」


きっと私を安心させようと優しく微笑みかける彼だけど、私にはそれが無責任に感じてイライラした。


「飛影くんってさ、遠くに行っちゃったんだよね?」
「……えぇ、そうですよ。」

そう言うと、彼はさっきのような困った顔をした。

遠くに行っちゃったなんて、そんな言葉で納得するほど私は子供じゃない。
でも、その先の事を聞いて受け止められる自信が私にはない。
だってもしかしたら、最悪のことだってありうる。
あの人は遠くに行っちゃって、お星様になったっていうありきたりな絵本のお話。


「飛影は大丈夫ですよ。」


そんな私の不穏な空気を察したのか、蔵馬、秀一くんはまた笑いかけてくれた。
今はとりあえずその笑顔に頼ることにする。
悔しながら、私より彼の方がうんと親しい。

窓から外を見ると、鳥が飛んでいた。
ただ待つしかない今の自分が惨めに思えて、右手で拳銃の形を作ると1匹に標準を合わせた。


「ばーん」



例えば私に翼があったとして、

それでも貴方に会いに行けない。


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