私が生まれた時、忍はいつも泣いてばかりいた。 どうしようもなく逞しくて、どうしようもなく繊細で。 絶望の淵に立たされ、できた虚を埋めるために私は生まれてきたのだと。 そして、その時からこの世界の崩壊を私は知っていた。 それは眠りにつく感覚に似ていると思う。 何となしに体がダルくて、でも思考は妙に冴えていて。 いっそこのダルさに身を任せてしまいたいけれど、それはやはりサヨナラを意味するものだから、私はグズる子供のように、まだ未練がましく世界に佇んでいた。 他の何人かはもう眠ってしまった。 私は、最後のその瞬間まで忍と居たくて、ずっと見守っていた。 「なまえ…。」 忍が私の名を紡ぐ。 それだけで私は嬉しくて、まるで飼い犬のようだと思った。 「迷惑かけたな。」 「私達に迷惑をかけるのが、貴方の仕事でしょう。」 「そうか。」 忍は力なく笑う。 どうしようもない愛しさが込み上げる。 何度、その手をとりたいと思っただろう。 何度、その体を抱き締めたいと思っただろう。 でも残念ながらそれは永久に叶わない。 私は、貴方自身だから。 「魔界に来てみて、どう?」「ああ…。」 「実に綺麗だ。」 皮肉ね。 貴方の泣き顔しか知らなかったのに、こんな時に心からの笑顔を見ることができるなんて。 どうやら私の役目も終わったみたい。 「忍、疲れた?」 「ちょっとな。」 「休むといいよ。」 「なまえも、な。」 私は目を丸くした。 忍の目は、全てわかっているようだった。 やっぱり貴方には敵わないわ。 急激にダルさが全身を包む。 そうだね。もうサヨナラしなくちゃね。 忍がそっと眼を閉じる。 お別れだよ。 今度は貴方自身ではない形で会いたいな、なんて、こんなことを望むのはおかしいけれど、これぐらいのわがままは許してほしい。 そんな些細な希望を胸に、私は貴方と成ります。 さようなら。 そして 「お疲れさま。」 また逢う日まで その時には、私にも肉体がありますように。 back |