「好きです。」






目の前の人間、なまえはそう告げた。

人間の女にしては生意気で、非力のくせに偉そうに俺に意見をする。
身長も高く、いつも見下されて実に不愉快だった。




「好きなん…です。」



そんななまえがボロボロと大粒の涙を溢し、身を縮めて、泣きながらひたすら俺に愛を呟くのだ。

その小さな体は文字通り、非力な人間のソレだった。
小刻みに震える体を見て、俺は何も言えなかった。
否、うまく言葉が見つからなかった。
ただでさえ感情表現が苦手だと言うのに、どうしてこの小さな体に言葉をかけることができよう。


「……飛影…好き。」


ただ、こんな俺にひたむきに愛を呟くなまえが愛しくて仕方なかった。


答えなどきっと、とうの昔に出ている。
どんなに冷たく突き放しても、コイツは必ずついてくる。
ちょろちょろちょろちょろ。
鬱陶しくて仕方なかったはずなのに、それが愛しくなっていたのを俺自身が知っていた。だからこそ、答えに応えられなかった。
何故なら、なまえは人間だから、だ。
俺は……。

右手の拳を握りしめた。
ギシリと包帯が食い込むのを感じる。
なまえは俺のことなど何も知らない、知らなくていい。
なまえはれっきとした人間なんだから。












「……ひ…えい?」


我ながら、随分とヤキが回ったなと思う。
この俺が人間を抱き締める時がくるなんて。
でもきっと、これが最後だろう。


「…俺は――……」


体をそっと離した。
その先の言葉は飲み込んだ。
なまえの顔は涙でぐしゃぐしゃで、あまりにも情けないツラをしていたから笑ってやった。
笑ってやれた。


「………じゃあな。」


小さくなまえに告げて、瞬間にその場を去った。
俺を呼ぶ声がしたのは、きっと気のせい、だろう。

そのまま夜の闇に身を投じる。
なまえが俺を見つけないように。
俺の後を、もうついてこないように。



恋に恋して、君を愛して。

愛してる。だからさようなら。


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