「これはまた、懐かしい奴が居るな」

カウンターで一人飲んでいたら、女子の間では悪名高き男、ターレスが隣にやってきた。
悲しきかな、私はコイツと幼なじみの腐れ縁である。


「元気そうじゃないか」
「そっちも、色々とオゲンキそうで。」


私は嫌味ったらしく、指先で首元をトントンと叩いてやった。
いっちょまえにキスマークなんかつけてんじゃないよ。
そのくせ悪気もなくニヤリと笑うんだから可愛気もない。


「そう嫉妬すんなよ。」
「誰が。」


私はカクテルを一口飲んだ。


コイツの色恋沙汰は嫌という程知ってる。
噂話だけでなく、当の本人から聞かされるのだ。
今回の奴は相性が悪いだとか前の奴は奉仕はうまかっただとか。
知らないっての。

それと同じくして、泣かされた女の子達も私は知っている。
ターレス自身が悪いのか、馬鹿な女が悪いのか。
とりあえず、私はそんな話ばかりにうんざりしていた。


「いい加減落ち着いたら?」「落ち着くって下半身を?」
「サイッテー」


呆れてため息が出る。


「彼女作ったらって言ってんの。」
「なら、なまえがなってくれるのか?」
「……………は?」


最悪。間が空いた。
しかも返答も悪い。
これじゃマジっぽいじゃん冗談な空気じゃないじゃん。


「俺、なまえの事嫌いじゃないぜ?」


ターレスが上半身を崩し、上目遣いで私を見つめる。
それで何人の女泣かしてきしたと思ってんのよ知ってるでしょう?
何かがグラつきそうなのを必死にこらえ、意地を張る。


「好きではないんだ。」
「なんだ、そう言ってほしいのか?」


完全にターレスのペースだ。
駄目だ、落ち着け私。

ターレスが私に近づく。
反射的に離れようとするが、左腕が腰に回され、逆に急激に距離が近くなった。
ねぇターレスいくらなんでも近すぎるよ。
目の前にアンタの顔があるしむしろさらに近づいてない?
近いってば近い近い近い近い近い近い近いっ………










「冗談。」


腰に回してた腕をパッと離し、おどけたように笑いやがった。
そして唖然とする私を置いて何事もなかったかのように酒を煽るんだから無償に腹がたつ。


「…いつもそうやってるわけ?」「さぁな。」


ターレスは誤魔化すようにウィスキーを飲んだ。
私のカクテルはすっかり水っぽくなってしまった。


「彼女なんざ、作る気はねぇよ。」


心臓がドキリと跳ねる。
複雑な思いが渦巻く。
嬉しいような、悲しいような…。

でもターレス、さっきアンタに抱き締められて、私、嬉しかったんだよ。


「罪な男。」
「お褒めに預かり光栄で。」


私達は結局腐れ縁の幼なじみで、
すっかり薄くなったカクテルを私は一気に飲み干した。



ノーマルエンド


悲劇のヒロインにもなれやしない


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