バーダック、私は貴方を憎みます。 湿度の上がった室内。 乱れる呼吸の音。 共鳴した心臓。 結ばれる指。 絡み合う脚。 互いの視線が自然と惹き付けて、どちらかともわず口づける。 不器用な貴方に似合わず、口づけはとても繊細で。 繋いだ手に力を入れると、優しく繋ぎ返される。 それが嬉しくて口元を緩めると、貴方も笑う。 「なに笑ってやがる。」 「嬉しいの。」 素直に言えば、貴方も満更じゃなさそう。 先程の情事で張り付いた私の前髪を払いのけて、おでこに落とされる唇。 それに合わせて貴方が出て行こうとするから、脚を絡ませて阻止した。 思わず苦笑をもらう。 「なんだ、まだ足りねぇのか。」 「違うわよ。」 今度は私から意図的に口づけた。 ちゅっと鳴るリップ音。 貴方は拒絶することもなく、その大きな手で私の髪を撫でる。 指に絡まる髪が、私の心情のようだった。 「ずっとこうして一緒に居たい。」 だから私も絡みつく。 貴方とは違う、細い腕で精一杯。 「欲張りが。」 「貴方に似たの。」 対照的な逞しい腕が背中に回されて、ぐっと近づく距離。 しっかり感じる貴方の体温。 確かなる実感。 「バーダック、」 ただ私だけを写すその瞳が愛おしくて、 だって、今、貴方は私のもので、私は貴方の…… 「愛してる。」 「ハァ゛っ……はぁ…はっっ………」 あれはいつのことだったかしら。 近いような、遠い記憶。 当たり前のように貴方を感じた、 当たり前のように貴方を愛した、あの日々。 それは私にとってはただの日常で、まるで一昨日食べた朝ごはんは何だったかと、思い出すのも億劫なくらいの事で、 必然のように感じていた日々が、そういえば何の保証もされていなかった事に、今更ながら気づく愚かな私をどうか笑って。 「……バ……ック…、」 数日前に飛ばされた辺境の地で、また貴方と過ごす日々を糧に生きた間抜けな私。 その日常の崩壊は突然に、しかし必然的に私の背後にスラリと忍び寄る。 久しぶりに鳴ったスカウターは実に不快な上級戦士の音声で、残酷な程に事務的な内容しか述べない。 知らぬ間に、私は国を持たぬ流浪の民となってしまった。 それ以上に、自身の故郷が消滅したという事実以上に、その故郷と共に消えたという貴方の最期が、私を激しく取り乱させた。 受け入れ難い事実に感情のまま投げ捨て、足元に無惨に転がるスカウターがただ悲しかった。 「…バーダック……っっ…!!!!」 漸く吐き出した名前は虚しく木霊して荒地に消えた。 「バーダック…!バーダックっ……!!!」 力なく着いた膝からは微量の出血。 嗚咽を止める術を知らない私は、自身の肩を抱きしめ、ただ丸くなる。 ポタポタと無情に落ちる涙は荒地に吸われ塵と消えた。 ああ、この涙をふいてくれる人を、この震える肩を抱いてくれる人を、私は失ったのだ。 バーダック、 私は貴方を憎みます。 私の中に深く入り込み、絶対的な存在となりて、去って行った罪深き人。 貴方との日々は眩しすぎて、思い出すのも苦痛です。 最早脱け殻となった私なぞ、行く末は安易に想像できて。 無様なこの姿にさせた当の貴方は知るよしもないの。 それでも、貴方が愛しくて仕方ないのはどうして? どれだけ愛していたか どれだけ想っていたか ねぇ、バーダックは知ってた? 貴方が愛しくて仕方なく、貴方がいないとどうしようもないちっぽけで無様な私は、だから貴方とさよならするのです。 自らの不幸を嘆き、 貴方の最期を呪って。 さようなら。 紅く染まる異星の空は、貴方が付けていた装飾によく似ていた。 彼方に見える一番星が、闇の訪れを知らせる。 その星に願うのなら、どうかもう二度と貴方に会わなくていいように、 back |