あの時も私は走っていた。
寝起き姿だったのも、裸足だったのもお構いなしで、町中の冷たいコンクリートを踏みしめて走っていた。
まだ何も口にしていない喉はカラカラで焼けるように熱く、やたら五月蝿く鳴り響く鼓動は走っているせいなのだ、と自分に言い訳をして。
港に着くと、そこのはもう何もなくて、ムカツクぐらいに眩しい朝日がただ私を照らしていた。
早朝の冷たい空気に私の吐く息を白く染め、お前の努力は無駄だったのだと嘲笑っているかのようだった。
その時、私は世界の広さと己の空虚を背負ったのだ。
そして今、私はまた走っていた。
自分の背負った負を振り払うかのように。
やたら五月蝿く鳴り響く鼓動は走っているせいなのだ、と言い訳をして。
コンクリートで舗装されていた道から砂利道に変わり、周りに人や建造物がなくなり、ただ青々とした草原の広がる大地を、ひたすら走りぬけた。
そして、その大地で、私はやっとオレンジを見つけた。
息は上がり、心臓が忙しく体中に酸素を給油している間、脳は妙に冷静で、ただひたすら、目の前のオレンジを捉えた。
両足の筋肉が「もう走れない」と悲鳴をあげているのを無視して、私は歩を進め、ある一定の距離までオレンジに近づいた。
だんだん近くなるその後ろ姿は、3年前と大して変わっておらず、相変わらずのテンガロンハットに背には誇りを背負っていた。
変わった事といえば、体つきが3年前のソレに比べたらたくましくなってい、放つオーラも大人のものになっていてた。
それが、この3年間何が起こったとかを物語っていた。
そう、強くなったのだ……と。
2人の間の距離をどんどん縮めていっても、まるで気付いていないかのように微動だにせず、草原から見える海を眺めていた。
ある一定の距離で私は静止し、目の前のオレンジを見据えた。
「やっと見つけた…ポートガス・D・エース。」
「これはこれは、ヤローが俺に用があるのはしょっちゅうだが、こんなお嬢ちゃんとは。」
声をかけると、目の前のオレンジ、ポートガス・D・エースはやっと反応を示し、すこしコチラに顔を向けた。
「随分と俺を探していたようだが…?」
「3年間よ。」
「ほぉ。それはご苦労様な事で。」
余裕綽々な喋り方。
でも声は低く、どこか圧力をかけるような。
2人の間に妙な緊張感がピリピリ響き渡っていた。
「それで?3年間俺を探し続けて、一体なんの用だ?」
余談をする気は更々ないらしく、すぐに本題を切り出してきた。
背中のシンボルマークしか見せなかった姿を反転し、正面を向くと私を直視した。
瞬間、細めていた目を見開き、上げていた眉毛を下げて、驚いた表情を見せた。
「…なまえ?」
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