セミの鳴き声がやたら五月蝿い、
そんな朝だった。
In Summer,
I Loved You
as if
I escaped from The World.
ここに来た当初は鬱陶しくて仕方なかったセミの鳴き声も、これで最後かと思うとどこか新鮮だ。
肌にまとわりつく薄い掛け布団も、もう暫くはないと思うとどこか寂しい。
でも長々と感傷に浸っている場合じゃない。
早くしないと、セミ達がなまえを起こしてしまう。
意を決して起き上がり、出発の準備を始めた。
とは言っても、大半の準備は昨日のうちに終わらせていたので、もうほとんど乗り込むだけになっているのだが。
ここに来た当初よりも少し重くなったリュックを肩に背負い、少々くたびれ始めた帽子を被り、見慣れた部屋を後にした。
「おはよう。」
驚いた。
リビングに行くと、まだ眠っていると思っていたなまえがキッチンで何か調理をしていた。
昨日言った予定時刻よりうんと早く起きたってのに。
「おはよう。随分と早起きだな。」
「エースこそ。」
そう皮肉っぽく言い笑う彼女に、胸がチクリと痛んだ。
なまえが目を覚ます前にここを後にするつもりだった。
もしかして、読まれていた…?
「ちょっと待っててね。もう出来るから。」
もちろん、そんな事聞けるハズもなく、俺はキッチンで忙しく動くなまえをただマヌケに見ることしかできなかった。
「一応ね、朝御飯作ったんだ。サンドイッチだけど。食べてく?それとも持って行く?」
「お、悪ぃな。食って行きたいのは山々なんだけどよ、後でおいしくいただくよ。」
嘘だ。
「ん、わかった。じゃあ詰めるからもうちょっと待っててね。」
リビングでなまえを見掛けた時、俺の決意はいとも簡単に揺らいだ。
ここで一緒に朝食を共になんてしちまったら、俺の決意が崩れるのは目に見えていた。
情けない。
別れなんて、何度も経験してるってのに。
「はい。」
「さんきゅ。」
手渡された朝食を貰う時、僅かに触れた指に異常な切なさを覚える。
この一週間で初めてなまえに触れた瞬間だった。
「…見送り、行ってもいい?」
「ああ、何だか悪いな。」
ここで断れない俺は、どうしようもなく弱い奴なんだろうか。
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