「お前さぁ、もうちと意思表示した方がいいんじゃねーか?」

それは私がフォークで目玉焼きの黄身を潰すのとほぼ同時でした。
何でこんな朝っぱらからそのような事を言われなくてはならないのでしょう?

「それは先程の卵の件ですか?」

確かに私は「スクランブルエッグと目玉焼き、どっちがいい?」と聞かれ、「どちらでもいいです。」と答えました。
しかしそれは、本当はどちらかといえばスクランブルエッグの方が好きですが、かと言って特別目玉焼きが嫌いなわけではなく、そしてまた特別スクランブルエッグが好きなわけでもないので、どちらでも良いと答えたまでなのです。

「いや、卵に限らず、色々、さ。」

そう言い、フォークに刺さったウィンナーをパリッと齧りました。
その音があまりにも良かったので、私は不意にホットドックか食べたくなりました。

貴方様は、まだ半分ウィンナーが刺さったフォークを私に向かって突き出しました。
「どうしてもっと主張したりしねぇんだ?」
「それは私にとって無駄な事だからですよ。」

私は話を遮る様にカップ&ソーサーを手に取り、淹れたてのコーヒーを口に含みました。
香ばしい香りが鼻腔を刺激し、口いっぱいにほろ苦さが広がり、現実から逃れられるような錯覚を覚えました。

しかし、私はきちんと最低限の返答をしたハズなのですが、貴方様にとっては返答ではないらしく、相変わらずウィンナーの刺さったフォークを私に向けて、ジッと直視して次の言葉を求めているので、私は少し困ってしまいました。
貴方様はなんてめんどうな方なのでしょう。

「伝える相手が他人である以上、自分の意思は完全には相手には伝わりません。
それは私にとって無意味な事なのです。」

要はそういう事なのです。
しかし、このような簡約では納得していただけなかったらしく、眉間に皺を寄せて尚も私を直視してくるので、私は具体例を挙げざるを得なくなってしまいました。

「それが客観的な事実や共通の知識なら良いのです。
例えば、1+1=2だと言えば、それは実証されている事実なので相手に伝わります。
しかし、それが意思や感情だとそうはいきません。
どれ程思っているのか、どれ程深いのか、完全には相手につたわりません。
私が1だと伝えても、相手には1/2や2/3程度しか伝わりません。
それでは全く意味がないのです。」

コーヒーを口に含み、一息置きました。
眉間の皺が無くなってきたのを見ると、少しは理解してきたようです。

「私はいつだって絶対を求めます。
ですから、1/2や2/3だけ伝わっても、私にとって何も伝わっていないのと同じ事なのです。
なので、私は自分の意思表示は基本的にはしません。
それは意味のない事だからです。」

一通り話終えましたので、そっと貴方様の視線を返しました。

貴方様はゆっくりと、しかしはっきりと口を開きました。


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