「最後に何か言い残しておきたい事はある?」
沈黙を破ったのは少女だった。
しかし、この言葉には無意識にこの青年を斬る事に関して戸惑いが隠されている事に少女は気付いていなかった。
けれど、その意を察した青年は、トレードマークである帽子を深く被り直し、困ったように笑った。
感情程、無駄なモノはないと少年は痛感していた。
いっそ人形なら、ロボットなら、このように思い悩む必要もなかったのに。
しかし、残念ながら我々は人間である。
だが、それと同時に人間である事を誇りに感じていた。
「…そうだなぁ……。」
少女は胸を引き裂かれる思いだった。
なぜなら、帽子を深く被り、顔を伏せたと思った青年の顔が、顔を上げた時にはあの時のような優しい表情を見せていたからである。
少女は否定してしまいたかった。
己の中に確かに生まれた感情を、この男を斬る事に躊躇している理由を。
そしてまた後悔していた。
このような問いかけをしてしまった自分に。
ここから先の言葉は、聞いてはいけないような気がした。
耳を塞いでしまいたかった。
泣きだしてしまいたかった。
少女の向ける刃先が、グラリと揺れた。
「なまえ、愛してる。」
ラメント
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