どれ程時がたったのかはわからない。
だが、私にはまだ意識というモノがあるのだと自覚した時、目の前には知らない天井があった。
ヤッベーここ天国?なんて思って左腕を見ると、残念な事にしっかり包帯が巻かれていて、私のテンションは急降下した。

「気がついたか?」
声のする方に顔を向けると、そこには上半身裸の見知らぬ男(そもそも知り合いに上半身裸の男なんて、いない)が椅子に座って居た。

誰だコイツ?

視線を落とすと、ソイツの手にはあの不快なオレンジ色の帽子が握られていて、
それを見た瞬間、状況が一致する。
コイツのせいだ。

「…なんで助けたの。」
あからさまな私の不機嫌さに男は眉毛をピクリと動かした後、表情を黒く染めた。

「死にたがっている人間を簡単に死なせてやる程、俺は優しくねぇんだ。」
「何者?」
「海賊。」
「人助けする海賊なんて聞いた事ない。冗談は顔だけにして。」
「うわキッツー。」

男は苦笑を漏らしながら、持っている帽子をかぶった。

「どこ、ココ。」
「海賊船中。」
「私をどーするつもり。」
「さぁーて、どうしようかねぇ。」

両腕をイスの背に回し、足を組んだ状態で地に着く足でイスを漕ぎだした。
この男と話しているとイライラする。
顔の向きを天井に戻した。

室内は男の漕ぐイスがぎぃぎぃ鳴る音しか聞こえない。
沈黙、沈黙。

耳を澄ますと、微かに雨音がする。
雨はまだ降っているらしい。


「……なにがあった?」
男が、沈黙を破る。

「俺で良ければ力になるぜ…?」
イスの音が急に止む。
室内に響く男の低い声。
心臓がドキリと鳴り、嫌な汗が、全身を伝う。
過去の自分の光景が脳裏に浮かぶ。
忘れたい過去が、次々と頭をよぎる。
胸の中で、なんだか黒くてモヤモヤしたものが全身に巡る。
息苦しい…。

「……ま、素直に誰かに相談できるなら自殺を望んだりしないか…。」

呼吸が自ずと荒くなる。
胸の奥が、熱い。
泣き叫んでしまいたかった。
でも、その衝動は下唇を噛んで必死に耐えた。
頭の中が、スパークする。

「名前は?それくらい教えてくれてもいいだろ…?」男が、また、私に近づく。
土足で、私の中に入ろうとする。
来ないで。
これ以上、近づかないで。

「…名前がないのか?それとも…自分の名前が嫌なのか?俺に言いたくないのか?」
「……嫌いよ、自分なんて。」
精一杯の言葉だった。
喉が引き攣って、うまく言えてないのが自分でもよくわかる。

心臓が悲鳴をあげる。
もういいでしょ。
これ以上、近づいて来ないで。
踏み込んで来ないで。
消えて。
お願い。
消えて…。


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