雨が、止まない。


Rain man


今日も、雨が降っている。
昨日も、雨が降っていた。
一昨日も、雨が降っていた。

最後に太陽を見たのは何時だろう。
いや、太陽なんて見たことないのかもしれない。
ずっと、雨が降っている。

でも、明日は雨は降らない。
なぜなら、明日なんて来ないからだ。



体に打ち付ける雨が酷く気持ちいい。
私の体温をどんどん奪っていく。
そうそう、いい感じ。

雨が、血液の凝固作用を妨げる。
お陰で傷口は塞がる事を知らない。
その傷口のお陰で、血液の行き渡らない左手は、もう感覚がない。
手首から切断されたみたいだ。
腐食が、始まっているのであろうか。

左半身に感じるコンクリートの冷鉄さが、私の心を落ち着かせる。
「死ぬ時は暖かいベットで」なんて、そんなふざけた事は言わない。
私にはコンクリがお似合いだ。
どんな時でも冷たくて堅い、そんな貴方が大好きよ。


コンクリートの優しさを感じながら、改めて目の前の傷口を凝視する。
血は、止まらない。
傷口近くのコンクリにできた血溜まりを、雨が流していく。
灰色の世界に、赤は酷く映えて。

綺麗…。


雨は容赦なく熱を奪っていく。
不思議と、暖かい。
寒くは、ない。

雨音が私の脳内を侵食する。
思考回路を鈍らす。
睡魔が、私を襲う。

もう終わりは近いかもしれない。

そうぼんやり考えていると、雨音に混じってする足音。
遥か遠くでしていたと思っていたのに、それはすぐ近くで。
私の視界が、誰かの足を捕らえた。

同時に感じる、真上からの視線。
まるで、汚物でも見るかのような。

視線を横にやる。
霞み始めた視界には、色しか捕らえる事ができなくて。

なんだよ、その空気読めてないオレンジ色。
全くもって、ナンセンスだよ、君。

ハッと鼻で笑うのがもう限界で、
瞼は重くて開けていられなくて、
睡魔にも似た闇に、意識を預けた。


[]

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「見えない臓器の名前は」
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