リメイクver | ナノ
遠野刹那は今郷高校の廊下のど真ん中で、堂々とナンパをしていた。 紫苑と別れてから、ふらふらと校内を徘徊していると、刹那の好みにドンピシャな女の子が数人できゃいきゃいとしており、そこに刹那が声をかけたのだった。
「ハローハロー、そこの可愛いお嬢さん方」 「え?」 「今暇かな?お時間がありましたら、俺とお話しません?」
繰り返すが、刹那はイケメンである。 イケメンが甘い科白を吐きながら、見惚れるような爽やかな笑みでそんな声をかけてきたら、それは悪い気はしないだろう。 イケメンとはなんとも得な生き物である。
そうして、刹那は当初の目的通り、可愛い女の子との時間を満喫していたのだった。
「おお、美人発見!」
しばらくして、部活に行くと言った彼女達と別れた刹那は、またぶらりぶらりと廊下を歩いていた。 そうすると、向こうから、また刹那好みな女子生徒が、二人歩いてきた。
「はぁい!美しいお嬢さん、今お暇かな?」
恭しく、まるで騎士のように優美な仕草で一礼をする。 こんな場所でするにはやけに仰々しい仕草なのだが、それがかえって様になっていた。 その言葉を聞いて、声をかけられた女子生徒、花鳥千歳はぱちくりと目を瞬かせる。 お淑やかな見た目もあいあまって、その仕草はとても可愛らしい。
「ええ、今は大丈夫よ。私に何か用かしら?」 「用というわけじゃあないんだけど、お嬢さん方があんまりにも美しいものだから…つい声をかけてしまったんだ。お名前だけでも教えてくれると嬉しいな」 「花鳥千歳、よ。こっちは大梨言美。…ところで、貴方はどなたかしら?見たところ、ここの生徒ではないみたいだけれど…」 「制服の不一致を確認。他校生徒との認識を開始。推定は正確ですか?」
「これは失礼!こちらから名乗るべきでしたね。俺は遠野刹那、水無月高校の生徒です。友人が所要でこちらに来たもので、それについてきました。よろしく、千歳嬢、言美嬢!」
にぱーっと笑って、二人に頭を下げる。 毒気のないその笑みに、不法侵入…とも言い切れない状況だが、とにかく、他校を勝手にうろついていたことに、注意する気もなくなってしまった。 女の子が好きなのだろうか。彼はずっとにこにことしている。 これほど明るくて面白くて容姿もよくて、女の子に優しいなら、さぞかしモテるだろう。そんなことまで思った。
「よろしく、ね」 「親交を了承致します」
「わっ!マジ?嬉しいなぁ、こんな可愛らしいお嬢さん方とお近づきになれるだなんて…本当、紫苑についてきてよかった!」
花鳥がにこりと笑って、よろしくと微笑む。 それを見て、大梨も了承の言葉を述べた。 それに、刹那がまた嬉しそうに笑う。
「…っと、そろそろ、紫苑の用事が終わる頃か。お嬢さん方、申し訳ないが、俺はもう行かなければ。次に会ったときは、お茶くらいご馳走させて頂きますよ。それでは、Arrivederci!」
時計を見やり、一礼した刹那が駆け出す。 最後に残した流暢なイタリア語。 それに、花鳥は妙に引っ掛かり、首を傾げた。
それを知るのは、まだ先の話。
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