リメイクver | ナノ




本格的な夏の気配が近づく夕暮れ。
水無月高校の生徒会長である、冷泉紫苑の元に、一枚の書類が舞い込んだ。


「……合同体育祭?」


概要はこうだった。

水無月高校と今郷高校の二校により企画された、合同の体育祭。
そう親密ではないが、立地場所がそれなりに近しいこともあり、過去の歴史を遡れば数度の合同行事の経験はあるようだった。
特に何かがきっかけとして存在していたわけでもなく、双方共に、久しく合同行事などという経験がなく、いい機会だからと教師達がどちらからともなく提案したらしい。

そして、その行事のために今郷高校の生徒会と話し合いをしてきて欲しいとの通達だった。


「…面倒だね、」


露骨に嫌そうな表情を隠さず、紫苑はゆったりと書類を机に放る。
今郷高校。それほど遠くはなかったはずだ。
嫌なことは先に済ませてしまおう。生徒会室にて惰眠を貪っていた刹那を叩き起こし、学校から出て行った。







「…ここが、今郷高校ね」
「おー!他校って新鮮だなー」

授業が終わり、放課後となった時間帯。二人は電車に乗り、今郷高校を訪れていた。
放課後という時間帯上、人はまばらではあるが、それでも制服の違う異色の存在…それも、片や寒気がするほどの美人、片や銀髪にオッドアイのイケメン。
視線を集めるのは仕方がなかった。
校内に残る生徒達は、皆好奇の視線で彼ら二人を見つめている。


「じゃあ、僕は生徒会長に会ってくるから…刹那、くれぐれも面倒事は起こさないでよね」
「はいはい、わかってるって!」
「大人しくしててよね。いい?大人しく」
「…へーい(二回言いやがったこいつ)」


銀髪オッドアイのイケメンこと遠野刹那は、生徒会役員ではない。
ただ、親しい紫苑が会長なこともあって、時々その業務に同行する…もとい勝手に押しかけることが多い。今回もその類だった。
合同体育祭なるものの話を聞き、「面白そう!」と目を輝かせた刹那が、盛大に嫌そうな顔をする紫苑を余所に勝手についてきた。
押しかけるとはいっても、もちろん邪魔はしないため、諦めて同行を許し、今に至る。
生徒会室を探す紫苑と一旦別れ、その背を見送った。


「さて、俺は散策にでも行きますか!」










「……、」

迷った、という表現はここでは適切ではない。なぜなら、迷うという現象は四方八方どうすればいいかわからない状態の時に使う。
少なくとも、自分の来た道…つまり帰り道がわかる間は、それは迷うとは言わない。
冷泉紫苑は考えた。当たり前だが、ここは見知らぬ他校。生徒会室の所在地など、超能力でも使わなければわかるはずはない。
当たり前だ。どれだけ面倒くさがっているんだ、自分は。現実逃避をしそうになる脳ミソに叱咤する。
そして、すれ違った一人の男子生徒…ではなかった、女子生徒に話しかけた。

「ねぇ、君、ちょっといい?」
「…はい?私ですか?」
「そう、君。ちょっと聞きたいんだけど、生徒会室はどこ?」
「生徒会室なら、一階上の、ちょうどこの場所ですよ」

紫苑が話しかけた女子生徒は、そう言って目の前の教室を指差す。その答えに、「そう…引き止めて悪かったね」とだけ返して、紫苑はさっさと歩き去ってしまう。
その背を見つめて、彼女はぽつりと呟いた。


「…しかし、えらい美人だったな。血も凍る美少年、ってヤツ?…噂の冷泉家の当主様の美貌ってのは、あんな感じかな…」




それは偶然か必然か。