リメイクver | ナノ






 ホント、何してんだろう。オレ。
 映画を見てるみたいだ。状況が客観的には理解できるのに、動こうとはしない。
 何で、オレは会長と手を繋いでいるのか。沙弥ちゃんが、望月先輩と手を繋いでるんだろうか。
 耳に入るのは、冷泉会長のお父さんと銀髪野郎のお父さんの言い争い。いや、料理のために科学チームに協力ってどんなんだと内心ツッコんでも、視線の先には沙弥ちゃんが、一生懸命野菜と戦っていた。不慣れな手つきで、望月(堅物)に食べさせる為に。

 今までなら、飛んでいくだろう。沙弥ちゃんは仕方ないなと肩をすくめて止めてくれる。だけど、それは沙弥ちゃんが皆に優しいからでオレだけじゃないそもそもオレは優しければ沙弥ちゃん以外でもいいわけで会長に抱きつかれた時に払えなかった最低だ何がだいすきだこんなの違うオレは沙弥ちゃんが本当にす、


「平城君」
「ッ!?」
「オムライス、できましたよ」


 ふにゃりと、人を安心させるような笑みを浮かべて会長はオムライスをスプーンですくって、俺の口に向ける。
 どうしよう……でも……。

 食べるべきなのか、視線を泳がせていたら、会長が困った様に笑みを浮かべ、語りだす。


「貴方は、何に迷っているのですか?」
「……え?」
「私の目的は、このリレーを通して、貴方を笑顔にすることです」


 少しだけ、スプーンを引っ込めた会長は、笑みを消し去り、俺を真っ直ぐ見据えて、俺だけに聞こえる声で伝えようとしていた。


「……笑顔って」
「話すことは、嫌ですか?」
「…………」
「お力になります。絶対に、なってみせます」


 会長が、ハッキリと断言した。それが沙弥ちゃんに本当によく似ていて……思わず、話してしまった。

 俺には好きなコがいること。
 そして、好きなコは俺を見ていないこと。
 ……俺は、自分さえ見てくれたら、愛してくれたらいいのかもしれないこと。

 話しているうちに、喉がしょっぱくなってきた。瞬間、阿守さんがスプーンを少し開いた俺の口の中にねじ込んだ。


「少し、主観的になりすぎてますね」
「んぐぅ……!!」
「とりあえず、これを全部食べてしまいましょう。全てが上手くいくとは断言できませんが……このリレーが終わる頃には、貴方の迷いを取り除いてみせましょう」


 会長の言葉が、わからなくて、だけど、凄く嬉しくて、思わずオムライスを飲み込んでしまった。とても暖かくて、甘いオムライスだった。


▽△


「え、ええええ……」


 一方、何故か風来先生と姉ちゃんがカップルリレーに参戦していた。身長差としてももうアウトな二人だったが、今は別の意味でアウトだった。

 多分、何時も台所でしてるような調理方法でご飯を作ってるんだろう。風来先生も注意出来ないくらいに、はやくてパフォーマンス染みた料理方法を。

 実際、姉ちゃんはマグロの解体ショーを秒単位で済ませてしまったらしい。綺麗に削がれたマグロを恐る恐る口にする風来先生と、満面の笑みで先生を見詰める姉ちゃんは微笑ましくもあって、恐ろしかったとのち噂で耳にした。