リメイクver | ナノ
有名人ばかりが一列に並んだこのカップルリレーは、ある意味圧巻の一言に尽きる。 しかも全員美形揃いだ。これで盛り上がらないわけがない。 だが、盛り上がる観衆とは裏腹に、選出されたメンバーの想いは見事に交差し、すれ違い、様々な感情が入り乱れているのだが。
「とりあえず俺は、どうしてこうなったと小一時間問いただしたい」 「まぁまぁ、いいじゃない。楽しもうよ」
その中で唯一、といっていいほどこの件に無関係なシドが、漂う微妙な空気に溜息をついて、そうぼそりと呟いた。 ちなみに二人がこのリレーに出場するのは別にいつもの恭真の気紛れや無茶振りでも何でもなく。誰が入れたのかしらないが、純粋な投票で決まっていた。 それを聞いた時には、さすがに二人もぽかんとした。なんで、どうして。よりによってこのリレー。 とはいえ、面白いことは何でも大好きな恭真のことだ。きっとにこやかに笑って了承したに違いないとわかってはいるものの色々と突っ込みたい。 何に突っ込みたいって、現在進行形で手を繋いで走っていることにだ。 周りから聞こえる黄色い歓声は学生時代から今までに幾度も味わったものだが、こんなに五月蝿かっただろうかと考えているシドは自分が暑さに弱いのを忘れていた。
「で、何すりゃいいんだ?」 「えっとね…『彼女が料理を作り、それをあーんする。ただし彼氏は激マズだろうと全部食べる』…だってさ」 「……料理、だと?」
第一関門のところに立てかけられた看板を見て、恭真がそれを読み上げた。それを聞き、シドが呆然と呟く。
『さて、カップルリレー最初の関門!彼女さん、腕によりをかけて料理を作ってくださーい!!…ところで。そちらのカップルさんは、どっちが作ります?』
司会者が元気よく指示を出し、そしておずおずとシドと恭真に尋ねた。 無理もない。「カップルリレー」なのに、どうして男同士?え?これ、タチネコで考えんの?え、ど、どっち!? そう思った彼は当然だろう。 だがしかし、そちらでは違う問題が起こっていた。
「んー…僕が作ろうか?」 「止めろ馬鹿ぜってー作んなっ!!」 「なんでさ」 「いいか恭真よく聞け、俺はお前のすることなら大概許容してやれる自信がある。むしろ何したって肯定してやるよだけどな、家事全般は別だ!掃除機も炊飯器も触ったことないどころか見たこともないお坊ちゃまにやらせたらどうなるか俺は身に染みて知っている!忘れたとは言わせねえぞ、俺の部屋を滅茶苦茶にしやがったのは!!」 「あー…あれ…でも、あれは初めてだったから…それに、掃除機も炊飯器も見たことないお坊ちゃまはシドもじゃない」 「俺はお前みてえに怖ろしい料理を作らねえよ!というか、あんな謎の食材のチョイスをしねえ!」 「美味しいと思ったのに」 「どこがだ!テメェ、頭はいいくせにそれを日常で生かそうとかは…」 「生かしたじゃない。素粒子研究チームに協力した!」 「途中で飽きて放置しただろ!あの後、お前がいねえせいで研究が進まず結局チームは解散したっつの!!」 「シドも一緒に逃げたじゃない!」 「元はテメェのせいだ!」
料理を作る云々の前に、ぎゃいぎゃいと言い争って全く作業が進んでいない。 穏やかそうに見えた冷泉会長の父親も、クールに見えた遠野刹那の父親も、次第に言い争いがヒートアップしてきたのかガンガンと論争していて、しかも途中から、片方がイタリア語に変わっている。 美形同士の異国語の喧嘩、という世にも奇妙な光景に、生徒達は大盛り上がりのようだった。しかし司会者はどうも出来ずに未だ困っている。
「大体、テメェは極端すぎんだよ!なんで料理に食えねえモン入れる!」 「はぁ!?食べれるでしょ!!何で食べられねえんだよ!」 「タンポポがか!?タンポポが食えるのか!?」 「季節のもの入れろっつったのはそっちじゃない!っつーか食べれる!こないだ見た!」 「それは食用タンポポだ!刺身に乗ってたあれだろ?テメェが食った料亭の!」 「どこが違うんだよ!黄色だしわさわさしてるし、タンポポでいいはずだ!」 「何処が違うかとか、俺が聞きてえよ!なんでアレが食える?つうかアレを食おうとか考えたの誰だよ!!」 「馬鹿だろどうして食えると思った!どうして食おうと思った!アレが食えて誰が嬉しい!!」
微妙に論旨がズレてきている気がする。 波乱のカップルリレーは、まだまだ始まったばかり。
|