リメイクver | ナノ




「ああんっ。桃ちゃんと一緒に走れないのは残念ですー!」
「死滅しろクソ虫」
「冷たい桃ちゃんも素敵ですよ」


 桃ちゃんと呼ばれたやや赤みがかったショートヘアの少女は、己の腕に絡み付く阿守麻世の腕を払い、胸ぐらを掴んで吐き捨てる。おでこどうしがゴチンと鈍い音をたてることは毎回のお決まりで、阿守も笑みを絶やさずにそのまま抱きつこうとしたが、そのまま桃ちゃんにより鳩尾をやられた。


「ごぶっ」
「おい。何を企んでやがる。あたしはアンタと望月をくだらねーカップルリレーに推薦したはずだが……何でテメーとあのデカノッポが組んでんだよ!!」


 勢い良く指を指した先には、涙目でうつ向いている真也の姿がいた。
 桃園はとにかく、阿守が嫌いだった。あわよくば、適当に流れてきたパイプ椅子が頭に直撃して今すぐ死んでほしいくらいには嫌いだった。彼女の為に弁解しておくが、おそらくこの今郷高校生徒会の中で一番の常識人だろう。
 そんな彼女は、望月の気持ちに薄々気づき始めてはいた。恩人か、好きかの丁度真ん中。相手はもちろん、阿守麻世だ。望月が白黒ハッキリし過ぎる性格なのは桃園だって承知していた。だから、気持ちを整理させるためにカップルリレーに参加させたはずなのに。

 カップルリレーという種目に出るカップルは、今郷高校から三組、水無月高校から三組という極めて少ないが、盛り上がる種目の一つだった。今郷高校からは、桃園が選んだ阿守と望月。そして阿守が選んだ風来教諭とその彼女。そろそろ出会いが必要だろうと生徒会の顧問を出場させる彼女が本当に聖母なのかと疑ったほどだ。
 そして、最後に出雲図書部長が選んだ真也と沙弥。「BLでもNLでもGLでもいけるCP!!」と息を荒くして叫んでいた出雲は理解できなかったが、沙弥の知名度と真也の能力に着眼点を置き、出場を決定した。
 しかし、何故阿守と沙弥の立場が変わっている? 桃園は頭を抱えた。


「お前この種目にはクイズとかあんだぞ!? その茶髪のこと知ってるのかよ!?」
「んー。大丈夫ですよ。その前にハプニングが起こりますから」
「はぁ?」
「じゃ、行ってきますマイハニー!」
「一生帰ってくんな!!」


 平城真也の腕を引きずるように入場門まで走る阿守の意味深長な言葉に、桃園は腕を組んだ。あの阿守だ。何を仕掛けるかわからないが、生徒に害を与えるものではないのだろう。
 それより彼女が気になっていることが幾つかあった。
 まず一つ。水無月高校から冷泉会長とその彼女が出場するのは納得しよう。しかし、女顔の男と一緒にいる銀髪は、先ほどから冷泉会長をでかくしたような男を避けていた。その隣には、借り物競争にて銀髪の父親と名乗った男。

 問題は、ここからだ。


「…………何で、大の男がカップルリレーで組んでるんだ? ウケか? ウケを狙ったのか?」


 しかし、桃園が言うウケとはギャグ路線のことを指し、現状では、女子生徒が二人を見てキャアキャアと黄色い声援をおくっていたことだ。ちなみに隣の図書部長は鼻を抑えて上を見上げ「風が、泣いている」と奇妙なことを口走っていた。とうとう頭がイカれたのだと桃園は解釈し、これから起こるリレーを目に焼き付けようとした。