リメイクver | ナノ




「冷泉家って、知ってる?」


 放課後、ファーストフード店に寄り道した俺と早乙女と田村さん。そしてチューチューとバニラシェイクを吸ったりしながら、ふと田村さんが呟く。


「何ソレ?」
「何でも、バカみたいに金持ちな一家らしいんだけど、それより凄いのは主人の顔だって」
「顔? イケメンとか言いたいの?」
「イケメンって域じゃないらしいよ。まるで芸術品だってダチが言ってたんだ。彼女が遊ばれたって言ってたけど、何も考えられなくなるくらいに綺麗なんだって」


 くしゃり、と空になっただろうシェイクを潰す田村さんの目には、何も映ってなくて、少し眉間にシワが寄っていた。そんな様子を早乙女はやれやれと肩を下ろして口を開く。


「彼氏がそんな調子じゃ、案外相思相愛じゃなかったのかもね」
「中学からバカップルって言われてるくらい仲良かったんだよ……? 顔が綺麗だからって、そんな……殴るくらい……」
「暴力に走るんだ?」
「ッ……いや、私が手を出しちゃいけない問題だから、そんなことはしない」


 悔しそうに拳を作る田村さん。本当に優しいんだな。田村さんみたいな人に愛されたら、幸せになるんだろうな、なんて思わず笑みが浮かびそうになったけど、状況が状況だから自重する。


「手を出さないなら、考える意味ないでしょ。田村が気にすることじゃない」


 早乙女なりの慰めだろう。女の子みたいな顔なのに、何時も毒を吐くから勘違いをされやすい早乙女。俺や田村さんはやっと早乙女が解るようになってきたから分かる。田村さんもありがとうと言った。
 そしてベタリと机に寝そべる田村が肘をつきながら、語りだす。


「でもさ、そんな綺麗な顔なら一回見てみたいよね」
「ッ!? だ、だめ! 田村さん! 絶対に!」
「うるさい犬」
「いっ……!?」
「田村が男に飢えてるわけないでしょ? この田村が」
「どういう意味だコラ」


 確かに、田村さんはショートカットだし、堂々としてて、姿勢もいいから男の子に見えないこともない。


「おう。惚れても惚れられない自信はあるよ」
「前者で俺は泣くよ……?」
「ホモなの? てっきり僕は女子(平城)に興味があるかと」
「早乙女!? それだと俺が女の子ってことになるよ!?」


 早乙女や田村さんはあまり表情が変わらないけど、なんとなく楽しそうだった。でも女の子に例えられるのは応える。だって例えるなら、結婚式で田村さんがタキシードで俺がウェディングドうええ気持ち悪い……。


「ま、ホモとかじゃなくて。あれだよ、ナイアガラ見に行くようなもん」
「君にとってナイアガラを見に行くことがイケメンを見に行くことと同じなんだ」
「ナイアガラ凄くね? 打たれてみたい」
「そのまま流されてしまえ」


 冗談っぽい早乙女の本気に苦笑する田村さん。俺が窓ガラスに目を移すと、かなり遠い場所に望月先輩がいることに気がついた。


「やばい、望月先輩が近くにいる」
「ッ! 早くでよう! あの人に見つかったら面倒臭い!」
「……なんであの高校には面倒な奴しかいないのかな」


 さっさと帰り支度をして、ファーストフード店を出た俺たち。
 クスクスと、俺達の座ってた後ろの席の男が笑った。


「フフ、面白そうな子達だな」


 男は、全力で望月から逃げているどこか浮世離れした茶髪の青年にショートカットの少年みたいな少女、そして黒髪の童顔少年の姿を目に焼き付け妖しく笑みを浮かべた。