リメイクver | ナノ




「おお……」


 冷泉紫苑会長の弁当が豪華過ぎる。さらに風葵先輩が食べさせてあげてる。逆パターンもあるが、漂う甘い雰囲気は、二人の関係を現していた。

 風葵先輩も、九条さんも、凄く可愛い。モデルや女優に負けないんじゃないかって位に。元の素質云々の問題じゃない。きっと、キラキラ光る髪の毛も、赤ん坊のような肌も、パッチリした二重の大きな目も、一生懸命努力したんだろう。

 ふと、うつ向き、自分を見てみた。顔なんて見えなくとも、既に泥だらけになった体操服や皮が厚い、男の様な角張った手だけで、自分が可愛げもない女なんだろうと再確認される。

 今まで、私は男にしか見られたことがなかった。それは、幼稚園からのものかもしれない。毎日毎日、走ることだけに夢中だったあの頃。でも、その扱いが時間を重ねるうちに当たり前になっていたんだ。
 一度だけ、スカートをはいたことがある。新しいお母さんが一生懸命選んでくれた、淡い紺色のワンピース。やけに股がスースーしたのはよく覚えてる。
 まぁ、そんな私を見てからかわない訳がなかった。オカマだと男子ははやし立てた。アイツらの前では泣かなかった。だけど、二度とスカートなんて着るもんかって思ったっけ。

 だけど、アイツは……。
 ずっと、私を可愛いって言ってくれた。
 好きだとも、守りたいとも。
 私にとって見れば、始めての経験だった。だから、驚いてしまったし、優しさで人を苦しめてしまうことに気づいたから……それに。

 たった一度会っただけで、助けられただけで私を女として見るなんて信じられなかったんだ。

 私は、琥珀みたいに可愛い顔はしていない。九条さんみたいに細くとも、女性らしいくびれもない。風葵先輩みたいに胸がない。女性らしいものが、何一つない。

 人間として好かれることはたくさんあった。それは、光栄なことだ。だけど、平城みたいなケースはまれすぎて、びびってしまった。


「沙弥嬢?」
「あ……」
「どうした? 何かあったのか?」


 ヒラヒラと私の顔の前で、手を仰ぐ刹那。心配をかけさせてしまったと、何でもないと笑って誤魔化す。


「やあ」


 そんなとき、頭上から誰かが声をかけてきた。太陽がその人の頭を照りつけて、僅かに漏れた光に私は目を細める。


「……何で、いるの?」


 最初に口を開いたのは、冷泉会長だった。不信な面持ちで、よく似た顔を睨み付ける。
 
「我が子の晴れ舞台を見に行かないなんて、俺がするわけないでしょ?」
「退屈しのぎなだけでしょ」
「紫苑は冷たいなぁ」


 よく似た顔でも、全く異なる。冷泉会長は無表情だけど、……多分、冷泉会長の父親は、飄々とした雰囲気に、笑みを浮かべていた。
 そして、先ほど私に話しかけてきた男の人だ。やっぱり、あの冷泉恭真だったんだ。

 先ほどより、軽く緊張した身体。冷泉恭真は私の肩にポンと手を置き、何処かを指差した。


「あのこじゃない? 探してたの」
「……え」


 冷泉恭真の指先に目をやると、平城がいた。

 阿守麻世会長と共に。

 頭を鈍器で殴られたような気持ちになった。胸が、痛い。なんだ、コレ。なんなんだ、コレ。
 そして、やっぱりなと何処かで思ってしまう自分もいたんだ。阿守会長は聖母だと噂されるくらい優しい。それに、慎ましく、なにより胸がでかい。

 直ぐに平城と阿守会長を見えないように冷泉恭真が間に割り込んだ。彼は、慈愛に満ちた瞳で私を映し出し、頭を撫でる。


「男の子って、こんなものだよ。だから、そんな顔しないで」


 ……私は、まだ笑えているだろうか。いや、笑え。何がなんでも、笑え。
 自分の気持ちに気づいたならば、最後まで果たそう。平城真也の幸せを、応援しようじゃないか。


「……平城が、無事で良かったです」


 例え、自分の感情や気持ちが壊れたとしても、君を応援し続ける。