リメイクver | ナノ
全く人の絆ほど美しくて尊くて、そして壊れやすく脆く愉快なものであるというのが未だ出遭ってこそないものの似たような精神を持つ中原歩実と冷泉恭真の持論である。 人は彼ら二人を善人だという者もあれば悪逆非道と呼ぶ者もおり、また狂人だと言う者もあれば神だと称え崇拝する者もいる。 それほど反転しうる存在というわけだ。
本来ならば二人がここで出遭うということは多分なかった。
けれど冷泉紫苑が意図せず田村沙弥と平城真也という、二人が気にかけていた者たちを煽ったことにより、奇しくも二人が似たような行動を取ることになったのだった。
冷泉恭真は田村沙弥を。 中原歩実は平城真也を。
それぞれが互いの愉悦と楽しみと欲のために二人に接触する。 太陽の光が零れる日陰で、二人がすれ違った。
「……?」 「……、」
冷泉恭真が振り返る。 白い髪を揺らして歩いていた中原歩実も、不意に振り返った。 視線が交差して、風が舞う。 同類だと感じたのだろうか、どちらからともなくくすりと笑った。
「…っ、平城…」
その頃。 平城を追い、保健室から飛び出した沙弥は、太陽の照りつける外を歩いていた。 いざ飛び出したはいいものの、彼の姿は見当たらないし、そもそも、見つけたところで何て言おうかなどは全く考えていなかった。
「っ…どこ行ったんだよ…」
だけど、探さなくては。 そんな意識に突き動かされ、彼がいそうな場所を虱潰しに探していく。ぱっと見、目立つ場所にはいなかったから、人気のない場所かもしれない。 そう思い、人の来ない日陰をうろついていた時、後ろから低い声がかけられた。
「…何してるの?」 「あ…」
その男には見覚えがあった。一度見たら忘れないだろう、あの変態保険医と同じくらい、暴力的なまでに整った、人間離れした美貌。 確か、冷泉紫苑の父親の…。 そこまで考えたところで、はっと気付いた。
冷泉紫苑の父親。 冷泉紫苑は、確か冷泉家の跡取り。 その父親ということは、もしかして…。
『俺の彼女がさ、その男に弄ばれたんだよ』
友人の声が頭に甦る。
「…悲しいことでもあったの?」 「え…?」 「辛そうな顔してるから…今は体育祭でしょ?それなのにこんなところにいるみたいだし…」
自分を気遣うような言葉に、警戒していたのが肩透かしを食らった気分になる。 心配そうなその顔に、違和感はない。
「あ、いえ…何も…」 「そう…。…でも、顔色が悪いよ。今日は暑いから、気をつけてね」 「ありがとうございます…」
何故だろう。聞いていたイメージとは違う気がする。 まあ、噂なんてそんなものか。 もしかしたら、当主ではないのかもしれないし、友人の言っていた相手が違うのかもしれない。
「…そういえば。さっき、茶髪の男の子があっちに走っていったけど…君の知り合い?」 「っ、平城…!」 「平城君っていうんだ?何だか思いつめてたみたいだったから…そっとしておいて上げた方がいいかもしれないね」 「でも……」 「後で、それとなく気分展開してあげたらどうかな?男の子は、そういうことに干渉されるのは嫌いだからね」 「…はい」 「うん。…それじゃあ、僕は行くよ。君は…」 「田村沙弥、です」 「そう、沙弥ちゃん…またね、」
ひらひらと手を振って、彼は去っていった。 平城が行ったという方向を見つめ、それでも先ほど彼に言われたことを思い出す。
「…干渉されるのは嫌い、か」
そういうものなのだろう。だったら、今追いかけるより、戻ってきたときに何事もなかったように振舞ってあげるのが一番なんじゃないだろうか。 そっとしておくのも優しさだろう。 本当に苦しんでいるのを見てしまえば、自分は動かないなんて出来ないだろうから、今だけは。
そう思い、沙弥は刹那たちの元に戻っていった。
それが、彼の思い通りだとも気付かずに。
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