リメイクver | ナノ




「…君達、何してんの?」


障害物リレーに出場するためにやってきた紫苑は、何故か田村沙弥と親しげに話す刹那とそんな刹那を睨む平城真也、そしてそれをおろおろと見守っている皇琥珀の様子に思わずそう漏らした。


「お、紫苑。見てろよ…次こそリベンジだかんな!」
「あっそう…受けてたってあげるよ」


紫苑の姿に気付いた刹那が、彼の胸元に拳を付きつけ、そう宣戦する。それににやりと笑い、紫苑が不敵に拳を返した。
そうしている間に、沙弥と琥珀はお互いの存在に気付き、どちらからともなくぺこりとお辞儀を交わして挨拶をしている。


「あ、どうも。俺、皇琥珀っていいます」
「あ、こちらこそ…田村沙弥です、よろしく」
「ところで…一つ聞いてもいいですか?」
「あ、それならこっちも聞きたいことが…」

「なんで、女モノのジャージ着てるんですか?」
「なんで、男モノのジャージ着てるの?」


二人の声が見事に重なった。


「……」
「……」
「……男だからです」
「……女だからです」


遠野刹那と冷泉紫苑の口論が次第に低脳な言い争いに発展しかけていて、平城真也にいいから競技に集中しろと早乙女からのお小言が降ってきていて、出雲祐希が冷泉恭真とシードラ=インフェルノの絡みに興奮して鼻血寸前になっていて、望月誠が阿守麻世に声をかけられていて、九条あみが暑さと紫外線に降参して保健室に退散しようとしていたその瞬間。

男にばかり間違えられる田村沙弥と女にばかり間違えられる皇琥珀。
二人の間に奇妙な連帯感が生まれていた。



『間もなく障害物リレーが始まります、選手の皆さんはスタートラインに立って下さい』



響くアナウンスに、妙な均衡力により固まっていた全員が急いで動き出す。
並んだはいいのだが、第一走者には、なんと刹那と平城が隣り合っている。初っ端から大戦争に勃発しそうな勢いである。
何も事情を知らない生徒でさえ、二人の間にぶつかる火花…とはいえ、その意味は双方で正反対ともとれるぐらいだが…を感じ取っていたくらいだ。
スタートの銃声と共に他の走者を置いてぶっちぎりで飛び出したのは言うまでもない。

ちなみにこの障害物リレーだが。
従来のものとは違い、走るのは一回目と二回目にしか分かれていない。いつの間に用意されたのか、ちょっとしたアスレチック、アミューズメントパーク並に広がる障害物たちを二十人ほどが一気に走り抜けるのだ。もちろん、脱落もある。
その中で、純粋にゴールに辿り着いた順位で勝敗が分かれる。至ってシンプルだ。


第一の障害は急な傾斜をロープで昇るというものだった。
これは力の強い平城が格段に有利で、凄まじい速さで楽々と傾斜を超えていってしまう。その後を紫苑、刹那、沙弥、琥珀の順で追いかけた。

が、次が難関だった。誰が考えたのか、卓球のラケットにピンポン玉を乗せて走れというもので、ここで全員予想外に手間取った。


「ちょ、これ無理!ぜってー無理!」
最初に刹那が根を上げる。

「いや、こうゆっくり歩けば…駄目か…!」
試行錯誤で頑張る沙弥もぽとぽと落としている。

「あ、」
「平城選手!ピンポン玉は潰さないで下さい!」
全員同地点に並んでしまい、僅かに焦りの色が見える平城がうっかりピンポン玉を潰し、怒られていた。

「……」
「冷泉選手!玉をついていくのも駄目です!」
最後の手段も難なく潰えた。

「すみません…ピンポン玉を乗せる時点から出来ないんですけど…」
「琥珀ちゃん可愛い…!」
「いや俺男!!」
琥珀は全然違うところで困っていた。


結果。全員散々な状態で、次の競技のスタートは綺麗に並んでしまっていた。
これは定番のパン喰い競争のようなもので、ここは全員難なくクリアしていく。
刹那と紫苑は走りながら手に入れたパンを食べていた。ここで息を切らしながらもツッコミを入れた琥珀はとても律儀だと沙弥は苦笑した。

リレーはいよいよ佳境に入る。



「…なんじゃこりゃ」

思わず漏れた声は誰のものだっただろう。
目の前には謎の物体。そう、敢えて言うなら中世の騎士の甲冑のような…そんなものが二つ並んでいた。それも、ご丁寧に一人二つずつ。


『さぁ、最後の競技です!そこに様々な武器が置いてありますから、その二体の甲冑を倒して下さい!』

「リレーどこ行った!?」
思わず突っ込んだ沙弥と琥珀は、きっと悪くない。


「へぇ…なるほど、これを倒せばいいんだね?」
「よっしゃ!こーいうのは得意だぜ!」
「これならいける…!」


「…あれ?困ってるの私らだけ?」
「……む、無理…」


流れるような刀捌きで木刀を選んだ紫苑、謎の改造された拳銃を両手に構えた刹那、そして武器は選ばず、慣らすように両手を打ちつけた平城の後ろで、どうしようかと二人が項垂れていた。


「そぉい!」と謎の掛け声をかけながら、刹那が慣れた手つきで拳銃を操り、甲冑の隙間に的確に弾丸を叩き込む。顔に当たったのか体勢を崩した片方を下から綺麗に叩き上げ、すぐさま一体を倒してしまった。そして、残りに向かい合う。僅かに汗で湿った銀髪が風に揺れた。

一方、紫苑は木刀を使用しているのだが、その動きはとてもではないが、刹那同様素人のそれではない。普通、剣とは両手で扱うものだが、紫苑はそれを難なく片腕で扱っていた。そう訓練されているのだろう、縦横無尽に動く彼の身体に、甲冑の攻撃が当たる気配はなかった。

だが。両者共凄まじいが、平城真也は別格だった。
二体の甲冑に向き合い、目を閉じてすぅっと深呼吸をする。次に彼が目を開いた時、一体の甲冑が地面に転がっていた。最初の動きで地を蹴り、そのまま甲冑を殴りつけたのだ。異常な馬鹿力を利用し、もう一体を投げ飛ばす。

一番にゴールに駆け出したのは平城だった。少し遅れて、ほぼ同時に甲冑を倒した紫苑、そして刹那がその後を追いかける。
だがゴールまでの距離が短いこともあり、順位はそのまま変動しなかった。


『一着、平城真也!二着、冷泉紫苑!三着、遠野刹那!』


大きな歓声が響く。
高らかなアナウンスと彼らを称える声が響く中、沙弥と琥珀は未だに甲冑と格闘していた。

一分後、甲冑越しでも悶絶するような見事な股間蹴りを喰らわせた沙弥が四着でゴールし。
その三分後、ぶち切れて振り回した木刀が上手くクリーンヒットした琥珀がぼろぼろでゴールした。