エーデルワイスの口付け
高校生という年頃の少年少女にとって、授業などというものはいかにばれずしてサボるかが一番の重要なポイントだ。
少なくとも、遠野刹那にとってはそうである。
何もしなくとも抜群に頭のいい天才児…とまではいかないが、こうしてサボりに専念していても構わないくらいには、頭は悪くなかった。
その対象となるのは、基本的に仲のよい琥珀であったり、時々あみであるのだが、如何せん知り合い友人の多い刹那のことである。
誰か一人とこっそり手紙のやりとり、メールのやりとりなんてしていれば、目ざとくそれを嗅ぎ付けた数人が混ざることも少なくない。
今日は、刹那が琥珀に手紙を回し、それに琥珀が二回ほど返事を返したところであみが参加し、少し遅れてクラスメイトが三人ほど飛び入り参加した。
これだけの人数が手紙の回し合いを始めているというのに気付かない先生もどうかと思うのだが、生徒達としては好都合なことこの上ない。
校長のハゲがライトに反射して光っていただの、生活指導の先生のカツラが少しズレていただの、隣のクラスの林が彼女と別れただの、鬼教師と名高い松本先生が思いっきり滑って転んでいただの、会話の内容は極くだらないものばかりであったが、不意にクラスメイトの一人がこんなことを書いた。
「そういえば、聞いたか?国際科の斎宮って女が、ちょー美人なんだってさ」
誰が美人だ、誰が可愛い、だなんて噂話は、高校生男子にとって一番美味しい話である。
この学校は普通科と国際科に別れているのため、互いの科での情報伝達は少し遅い。
故に、片方の科で噂となっている美少女の話題が、遅れて普通科のこちらに届いたというわけだ。
科が違う場合であれば難しいとはいえ、噂の美人とは、ぜひともお近づきになりたい。男子なんてそういうものだ。
例によって、可愛い子好きの刹那が、すぐさまこの話題に飛びついた。
「マジで?…斎宮?なんて読むわけ?さいぐう?」
それに、他の生徒が答える。
この辺りで、雑談に参加する生徒が徐々に増えてきていた。
「違う違う、「いつきのみや」だって」
「名前は?」
「たしか…梨花じゃなかったっけ?」
「斎宮梨花?」
「あ!俺見たことあるぜ。超美人だった!」
「マジか。それは是非とも拝みにいかねえと」
「休み時間に行こうぜー」
わいわいと手紙を回しあっていると、呆気なく授業終了のチャイムが響く。
クラス委員長の、起立、礼。の挨拶もそこそこに、先ほどの手紙回しに参加していた生徒達が刹那の席の周りに集まってくる。
予想外の人数に琥珀が驚いている中、じゃあ昼休みに見に行こうということで話は纏まった。