深海にて名を問おう
「しーちゃん!」
ああ、そういえば。
あの横暴生徒会長、冷泉紫苑には彼女がいたなぁとぼんやりと廊下を駆ける少女を見つめた。
さらさらとした茶髪に青い瞳。どこか外国の血が入っているのであろう彼女は、名前を桜木風葵といった。
学校でも屈指の美少女であり、同時に不動の女王様だ。
容姿端麗スタイル抜群、そのバストを少しでいいからわけて欲しいと切実に願ってしまったことは墓場まで持っていこうと思う。
風葵は、誰もが認める美人ではあるのだが、如何せんその性格が強烈だ。
自己中心的で横暴で、自分の容姿を自覚しているのか時々あざとい。
あざとさに関しては、モデル業にて思いっきり自分を作って偽ってぶっている自分が言えることではないのだが、そんなことは棚上げだ。
はっきり言えることとしては、まぁ、横暴生徒会長様とお似合いですね。そんな感じである。
校内には風葵ファンクラブという名の下僕の集まりまである。
常に彼女の周りに付き従っている取り巻きがそれだ。
そんな状況下であるから、彼女のあだ名が女王様になったのも必然なのだろう。
「あら、あみちゃんじゃない!」
「げ…風葵…」
風葵とあみは友人だ。
彼女のことが好きか嫌いかと問われたら間違いなく好きの部類に入るのだが、周りに取り巻きを侍らせた状態で、なおかつ隣に紫苑がいる状態で話しかけるのだけは少々勘弁して欲しい。
色々と困る。主に精神方面で。
「ねーねーあみちゃん、放課後、一緒にケーキバイキング行かない?」
「ケーキ?」
「そう!しーちゃんと行こうって言ってたんだけど、都合悪くなっちゃったんだって」
ちなみにしーちゃんとは生徒会長様のことである。
彼をそんなあだ名で呼べるのは、世界広しといえど彼女くらいだろう。
きゃっきゃっと話す彼女は友人の欲目抜きでも可愛らしいし魅力的だった。
ぶっとんだ性格をしていても周りに人が集まるのは、自己中心的ではあれど、正反対な、そういった無邪気さのせいなのかもしれない。
「じゃ、また放課後ね!」
笑顔で手を振り、取り巻きを引き連れて自分の教室へと帰っていく。
いつの間にか紫苑はいなくなっていた。
ケーキバイキング…。
うん。少し、楽しみである。