メーデー、神様





「やぁ、あみちゃん」
「……え?」


こういうのを、デジャヴというのかもしれない。





怖ろしく美しい男の人と遭遇した次の日、ぼんやりと机で雑誌を読んでいると、聞こえてきた声に反射的に顔を上げた。
そして目の前にある、忘れることなど出来そうにない整いすぎた顔立ち、白い肌、ぬばたまの髪、アメジストの瞳。
あみの席は、廊下側の窓が隣にある場所だった。
その窓縁に腕を乗せて、軽く屈んであみのほうを見下ろしている。
にこにことした笑みを浮かべた彼にぽかんとなる。


「……えっと…」
「はじめして」
「…はじめまして?」


律儀に告げられた挨拶に、首を傾げながらも同じように返す。


「僕は冷泉恭真、よろしくね」
「は、はぁ…よろしく、お願いします」
「あみちゃんのことは、雑誌なんかでよく見かけてたよ。一度会ってみたいと思って」


来ちゃった。
そう続けて、笑みを深くする。

こういったことを言われること事態は、別に珍しくない。
名前が売れれば売れるほど、ファンだって増えていく。中には熱心なファンもいて、こうして学校まで来られることも何度かあった。
だけど、彼はそうでないのは雰囲気でわかる。
握手を求めるわけでもなく、サインを欲しがる気配もない。


「やっぱり、本物は写真よりいいね。思ってたよりずっと可愛いよ」
「ありがとうございます」


ただ、惚れ惚れするような笑みを浮かべて、さらりと口説き文句を述べるだけだ。
自分を覗き込んで、そんなことを言う男の目的が掴めない。
お礼を言うと、くすりと小さな笑みを浮かべて、その陶磁器のような腕を伸ばす。
どこかの貴族のように洗練された動きであみの頭をくしゃくしゃと撫で、すぅっと瞳を細めて唇を動かした。


「…またね、」




波乱の、始まり。