最大級の愛を謳おう





始まりというものはいつだって唐突で、
そうして、あっけないほど単純にやってくる。





「やぁ、九条あみちゃん」

私はこの先一生、この男の顔を忘れないだろう。




「水無月高校って、ここでよかったよね?」




これは、とある小さな物語の始まりの話。










それは、寒気がするほど綺麗な男だった。
黒くなめらかな髪は夜の闇を溶かし込んだかのように真っ黒で、きらきらと艶めいている。嵌め込まれた瞳は深いアメジスト。瞬きをするたびに長く伸びた睫毛が瞳に伏せて、どことなく気怠い雰囲気を漂わせる。
白すぎるほどに白く、傷一つ、染み一つない真っ白な肌は最早雪のよう。
高い身長と、すらりとした長い手足はバランスよく身体から伸びていて、的確な場所に完璧なパーツを並べた顔立ちは異常なまでに整っている。


神の至高の芸術。
まるで人形だ。


そんなことさえ思った。目の前の男が本当に人間なのか、それすらも疑わしくなるほどで、職業柄、顔立ちの整った男を嫌と言うほど見ているあみでさえ、彼のアメジストの瞳に覗きこまれると身動きすら出来ない。
現に、常ならば騒がしい校門付近は異様なほどに静まり返っている。
誰もが、この男に見惚れていた。


「…あみちゃん?」
「っ…、あ、はい…ここで、あってます…」
「そう、ありがとう」


声までもが低く艶やかで、美しい。
何もかもが完璧だった。

穏やかな口調でそうお礼を言って、彼はそのまま校内へと消えていった。